「伸びしろを求め、学び続ける」
中川 政七が語る仕事--1
未経験は、怖くない
仕事は面白がってやろう
僕は司法試験を目指したものの、あっさりと挫折して富士通に入社し、プロジェクトのマネジメントを担当していました。必要なIT関連の専門知識は当初ほとんどなかったのですが、本や現場で学び、同じ仕事をする10人ほどの中で2番目ぐらいの成績は何とか取れていました。この調子でいくと10年程度は同じようなことをやり続けて課長かなと考えたら、そのスピード感だと僕は退屈しそうだと思ったのですね。やったらやった分だけのポジションをくれる会社で仕事をしたかった。
それをかなえてくれるのは小さな会社だと思い、転職を決めました。経験したIT業界以外で元気な中小企業を探すうち、不意に奈良の実家の商売があるじゃないかと気がついた(笑)。麻製品と茶道具を商っていますが、僕に継げという話が出たことは一度もなく、どんな商売をしているのかさえ詳しくは知らない。でも、能力に応じたポジションは狙えそうだと思ったのです。わずか2年余りで会社を辞めた僕の入社をおやじは拒みましたが、頭を下げました。
仕事について以前おやじが面白いことを言っていました。「会社が一番面白いのは伸びている時と潰れる時や」と。おやじが家業を継ぐ前、勤務していた会社で潰れそうな時期があり、それを立て直す日々には鉄火場の楽しさがあったそうです。僕は学生さんにもよく言うのですが、世の中には面白い会社と面白くない会社があるわけではなくて、それを面白がれるかどうかだと。自分の心の持ちようなのですね。
こうして入社した中川政七商店は、創業1716(享保元)年で、父親が12代目。実家ではありながら、僕にとっては何もかもが初めての未知の仕事でした。
ビジネス書が先生だ
主な二つの事業のうち、父親が見ていたのは茶道具の部門。僕は1カ月に満たずに、もう一つの麻生地を使った生活雑貨を作る新規事業に移りました。正社員7人。生産管理のIT化や人事、営業、マーケティングなどなど、自分なりにやるべきことを列挙し、それを動かすにはどうするか。経験がない初めてのことも、本を参考にすれば怖くはありません。
ありがたいことにビジネス書には先人のノウハウが詰まっている。いいと思えることは現場で実行してみて、更に自分で考え抜いていくしかない。意欲に燃える僕は、単純に「当たり前のことをやりましょう」と社員にも働き掛けました。しかし一人また一人と辞めていく。そこまで一生懸命に仕事をしたくないという理由でした。昔ながらの仕事ぶりで、整理された資料など一切なく、計画や仕組みもないに等しい。今もこれが日本の工芸品業界の現状です。でも流れに身を任せていては先行きは厳しい。自分たちで道を切り開いていくしかありません。
さて1年間で6人が辞め、最後に1人だけ女性が残ってくれました。その人は結婚、出産、上長などを経て今も活躍していますが、とにかく変化への対応力が半端ではない。こちらから急に組織変更などを出して皆が戸惑っても、「じゃどうする」と切り替えが恐ろしく早い。やはり生き残る人はスピーディーなのだと思います。(談)