「人と人の間に何が必要か」
小林 せかいが語る仕事--4
オープンにして進化する
骨格はITシステムの考え方
12席の定食屋「未来食堂」は、2015年9月にスタートしてから予定通り動き始めました。ワンオペレーションでランチタイムに3、4回転することや、「まかない」「ただめし」などの仕組みにも興味を持ってお客さんが足を運んでくれます。提供するスピードや味も喜んで頂けたようでした。
このように早く店を知ってもらえた理由の一つに、開店までのドキュメントを14年3月から1年半ほど書き続けたブログの影響もありました。ブログでは、会社を退職して飲食業界で修業した日々や、店を一人で回す仕組み、店舗探しや資金のことまで何も隠さずに発信したのです。読者は、この変わったプロジェクトをリアルタイムで見守り、ハラハラしていたかも知れません(笑)。見も知らない私なのに。
店を開くにあたって、私は以前から概念やノウハウのベースにITシステム設計を取り入れようと考えてきました。例えば私のブログは、ITの世界の「オープンソース」を意識しました。これはコンピューターのソフトウェアのソースコード、つまりプログラミングの内容を無償で公開するやり方です。作り手が「これをいくらでも自由に改変して構いません。みんなの知恵でもっと良くしていきましょう」と提供するわけですね。そうすると誰かの発想が加わって少しずつ進化していく。私のブログはそこまでの双方向性はないですが、仕事の道筋や工夫の実際がヒントになればと思います。
現在もホームページで、毎月の売り上げから仕入れ原価、経常利益などを全てオープンにしています。メディアに取材して頂いたら数字にどんな影響が出るのか。急にお客さんが増えた場合に日常のオペレーションをどうやって維持するのか。体験して戸惑ったこともきちんと伝え、もちろん私の一体験ではあるけれど、共有できることがあればと思います。
発想のハブ(拠点)として
もう一つ、システムエンジニアの世界では「ハリウッドの原則」という話がよく知られています。これは映画監督が女優や俳優に、「私を呼び出すな。必要なら私が君たちを呼び出す」という発想だそうです。つまり監督の構想がフレームワーク(枠組み)で、俳優たちが個々のアプリだとなぞらえている。どちらも必要ですが、まずフレームワークが先だということです。
未来食堂のシステムはこれに似ています。お客さんの要望や行動をしっかり捉え、フレームワークを決める。そしてそれに沿った質の良い食事や接客などのレスポンスをお届けする。私が目指すのは、たとえ一人でも運営できる店です。だから混雑時にバタバタして迷惑をかけることのないようなコントロールを工夫しています。これもITシステムからの学びでした。
これから、自分の力で何か役立つ仕事を始めたいという人もいらっしゃるでしょう。私は定食屋経営で目いっぱいですが、他の業態を目指す誰にでも、考え方や方法論をお伝えしていきたい。コンピューターの世界だけでなく、ITシステム設計の本質は様々な仕事に展開していけるからです。
「誰もが受け入れられる場所」の実現は私の願いですが、共感してくださる人にバトンをつなぐべく、オープンであり続けます。(談)