「脳に汗をかき、一心に考えよ」
森川 亮が語る仕事―1
ぬるい環境です、日本は
職場でまず認められよう
失業率が低く、仕事はいくらでもある日本で、「仕事が見つからない」という人が実に多い。それは、やりたくない仕事に二の足を踏んでいるだけではないかと思いますね。苦手な分野で働くのは確かに苦しい。でも、とにかく働ける場所できちんと勉強して結果を出し、仕事のできる人間だと認められることが先です。「やりたい仕事」を探すのは、その力を得てからでしょう。
実は僕もその例にもれず、やりたい仕事ができないと苦しんだ時期が数年ありました。子どもの頃から合唱団に所属し、中学、高校の時にはバンドを組み、大学ではドラムをたたくという音楽中心の日々。当然、音楽に関わる仕事がしたいとテレビ局に就職を果たしたまでは良かったけれど、配属先はコンピューターシステム部門だった。朝起きて会社に行くのも嫌なほど鬱々(うつうつ)とした毎日で、その部署で自分がやりたいことも分からない。それでも、渋々コンピューターを学ぶうちにインターネットが登場してきたのです。これは面白いことになる、新しい企画を作れると傾倒していきました。
ところが、上司たちは「エンジニアがビジネスのことに口を出すな」と言う。これが悔しかった。やりたいことが見えてきたらそれを抑え込みたくはない。少なくとも僕の方がビジネスセンスがあると信じて、仕事をしながら大学院に通いMBAを取りました。仕事を終えて大学へ行き、また会社に戻って仕事を続け、週末もずっと勉強です。大変でしたが、どんなに苦手な分野でも人の2倍学べばそれなりにできるようになるものだと実感しました。
しかし組織の中ですから、新しい企画を提案しても「そんなことは絶対に無理だ。リスクが高すぎる」と反対される。でもそこで、それに対して説得できなければならない。「認められる」ということは、仕事力が本当に鍛えられるプロセスなのです。
「動物園」の中でほえない
日本は物も情報もあふれ、とても恵まれていて平和です。仕事はしたいが「やりたい仕事でなければしない」と時間を費やす人々も、大して努力をしないままいろいろと甘やかされます。それが僕には、まるで動物園的な環境で飼われているように見えるのです。外に出て行動せずに「いい仕事がない、お金がない」と園内でほえているだけ。
しかし一方で、日本の外にはまだまだ不自由をしている国々があります。そこでは自分なりの意思で行動し、何かをつかむしかない。サバンナに放り込まれた動物のように生き抜いていくしかありません。そして近い将来、日本はそういう人々に追い越されるという危機感を僕は感じます。今はもう世界の情報が一つにつながっていて、ビジネスのスピードは日本で体感しているよりもずっと速い。世界のどこかで成功したビジネスはあっという間に知れわたり、差別化して追随しても、それはただの二番煎じと瞬時に分かってしまいます。先陣を切らないと価値が無いと自分は思っています。
僕は、やりたい仕事をやるべきだと伝えたい。そのための知識や経験が足りないなら、集中して何かで結果を出し、道を作るような行動を始めること。それができない理由を数え上げて自分を守っていると、たどり着けないと思います。(談)