「独自を求め、我が声を聞こう」
皆川 明が語る仕事―2
個の創造性を信じて
他者と同じ、から離れる
高校卒業後、ヨーロッパ一人旅に出た時、偶然の出会いから服作りに関心を抱いた私は、数カ月後に帰国し、文化服装学院の夜間部に入学しました。昼間は縫製工場でアルバイトをしながら、同じデザイナーという志を持つ仲間と一緒に学ぶことは楽しかったのですが、私はパターンを引くのも裁断をするのも苦手で遅かった。そんなある時、洋服のパターンを作る授業で、先生から「あなたのパターンは、こんなに基本からずれていて間違っている」と言われたことがありました。
デザインの独自性は、その言葉通り他者と違うわけですから、他者と同じことを学んでそれを良しと理解してしまった時に、「自分がどうしてもやらずにはいられない癖」を置き去りにしてしまうのではないか。みんなが今「良い」という価値をただ受け入れても、未来には変わっているかも知れないですよね。明確にではありませんでしたが、学生時代から「自分が良いと感じること」、つまり個体の創造性の意味を信じていたのだと思います。
縫製工場の後、お客様一人ひとりに洋服を合わせていくオーダーメイドのアトリエで仕事をしていましたが、それぞれに皆、体の形が全く違うのに、肩線はこうと一つの統計論からくる線を正解とするだけでは、無理がある。それは実際とは違うと体感しました。
その後、24歳から26歳までアパレル会社で働きましたが、そこでは素材から服を作っていたのです。小さなメーカーでしたが、工場に行かせてもらって布を作る現場を知りました。生地の問屋さんから既製の布を買うのではなく、自分でオリジナルのファブリック(布地)を作る。それこそが「服を作る」ということなのだと思えました。こうして自分がやりたいこととできることを確かめながら、歩き始めたのです。
魚市場で学んだ仕事の理念
生地からオリジナルで作り、服をデザインする。そう方向を決めて、私は東京・八王子で小さなアトリエを持ちました。しかし経済的には簡単に軌道には乗らず、私は魚市場でバイトを始めます。早朝から正午までで、午後は服作りに専念できる好条件。3年間働き、とても多くの仕事の糧を得ました。当社の理念を全て書き出したら、市場から学んだことばかりではないかなと思います。
まず材料の見極めができることが、その後の仕事の丁寧さや技術の高さに比例していきます。いいマグロを選ぶ人は、それをさばく包丁さばきも素晴らしく、見極めが適当な人は包丁選びも適当なのです。自分の仕事と材料を見る目はイコールだと思いました。
また、刃物や重たいもので作業しながら、その場でどんどん判断して動いている危険な場所でもあります。近くに危なっかしい人間がいたら予見して「馬鹿野郎! そんなことしてたら手切るぞ」と怒鳴って、瞬間に気づかせてそれっきり。理由が分かっているからお互いに根に持つこともなく、さっぱりとクリアでとてもいいんですね。
親方は、私が辞める日に「叱られ役をよくやってくれた」とねぎらってくれました。どうも後輩の失敗を、私を叱ることで間接的に気づかせていたようです。そんな関係性もあるのかと、この親方からは多くを学びました。(談)