「独自を求め、我が声を聞こう」
皆川 明が語る仕事―4
自分の成長を観察しよう
叱られることは糧になる
私は、仕事の中で叱られることは大事なことだと思っています。世の中には褒めて伸ばすという風潮もありますが、叱られることではっきりと分かることも多いのです。デザインの仕事では、製品を発表した時に売れない、ご購入頂けないという声のない否定があります。しかし、叱られるというのには声がある。自覚しやすい否定ですね。だから仕事をする上で、それをどれだけ真剣に受け止められるか。否定されることにも慣れ、糧にして欲しい。
例えば、うちのオリジナルの生地をスタッフが適当に置いて、1メートルでも雑に扱ったら、「それは君の1週間分の食費だから」と具体的に強く叱ります。材料の価値を分からない人間が良いものを作ることは絶対にできないからです。でも、それがその人の未来へとつながっていく。今の一瞬一瞬をきちんと正していくからこそ、ハッとして気づくことが積み重なっていく。ぶれてはならないことが伝わっていくと思います。
叱ることは、その人への否定ではありません。知識や経験の足りないところを教えているだけです。私がかつて魚市場で働いていた時、先輩や上司がとっさに「そんなことしたら危ない」と叱ってくれたように、私も、デザイナーとして生地を粗末にすることは、仕事の上で危ないのだと教えたいのです。そこは互いに、いい仕事に対して真剣でありたいと思います。
焦って自分を決めつけない
この会社で仕事をしたいと入社してから、様々な経験をすると思いますが、自分に向いているかどうかを2、3年で判断するのは早過ぎます。最初の数年は、仕事のスピードに頭がついていかない、手がついていかない。仕事についていけないのは自分に向いていないからだ、と感じるのは当然のことですが、そこは一回我慢したほうがいい。
会社というのは適正な速度で運営しなければ、判断のスピードが落ち、時間のロスがコストに上積みされ、商品価格に影響します。全て適正な時間で流れていかないと会社は続かない。ただその中で若い人は、何をスピーディーにしなければいけないのか、何にじっくりと取り組まなければいけないのか、自分なりの仕事の見極めをつけられるようになったほうがいい。そのためには数年の経験を要するのです。
それでも、自分にはこの仕事、あるいはこの会社は向いていないと立ち止まってしまったら、じゃあどうすればもっと働きやすい会社になるかと自分が主体になって考えてみることです。会社は変えられないとか、自分と会社の相性の問題だとかとは思わないでください。自分の意見を会社に持ち込み、組織を少しずつでも動かしていこうという気持ちを持ちませんか。
仕事はハードな部分がたくさんあります。しかし、体力的にきつくて大変な一方で、精神的には価値のある仕事をしているという喜びもあり、二つは同居できますね。スポーツ選手がそれを体現していますが、一般的な仕事にもそれはあります。厳しい面や苦しい面と、喜びの面というものがどんなふうに自分の仕事の中で同居しているか。このつらいハードルを越えたら、どれだけ喜びがあるか。トータルで見る。そういう観察力で仕事に価値を探し出して欲しいと思います。(談)