「丁寧な仕事に幸せが宿る」
武田 双雲が語る仕事―1
社会は次の段階に移った
自由な時代を活(い)かそう
「普通の子どもが、アメリカ大統領に直接、質問することができるようになる」。インターネットが世の中に普及し始めた頃、よくこんなふうに説明されていました。まさか、と半信半疑だったのに、それが瞬く間に当たり前になった。ネットによって世界がつながったことで、ほとんど全ての人が簡単に、安く、素早く情報にアクセスでき、しかも個人で世界中とコンタクトが取れるようになったんです。
これは、印刷革命や産業革命と同じくらい、いやそれ以上にすごい。僕たちの国境や上下関係、富、地位などの枠を軽々と超えてフラットな社会へ向かう革命です。僕はこの時代に生まれてとても感動しています。ガチリと閉まっていた窓が開いて風が流れ込んでくるような、ラクに息ができる開放感を強く感じているからです。
ああ、ようやく人が自由に働ける時代がやってきたんだと僕はうれしくて仕方がない。しかし、多くの学生はまだ、会社訪問のための定番スーツで就職活動に励んでいますね。僕だって20年前には企業に就職したわけですから、つい流れに乗ってしまう感覚は分かります。それは、個人とか自由とかと言われても、では自分はどうすればいいのかと考える機会も環境もほとんどなかったからではないでしょうか。
書道の世界でも同じことが起きます。マニュアル、つまりお手本を取り上げて、もう好きなように自由に、思いっきり書いてみましょうと言った途端に、みんなピタッと筆が動かなくなります。思い返せば、初めてお習字を習うのは小学生時代。お手本に似ているほど褒められ、個性的な筆跡は真っ赤に直されてきたものでした。でも、時代は変わったのです。
個性は競うものじゃない
僕たちの社会は、まだまだ高度成長期時代のルールや常識で動いている部分がたくさんあります。その中には競争力を身につけて生き残れ、自分の強みや個性を仕事に活かせといった考え方を感じます。今でもその圧力はかなりのものだから、社会人として自分の強みは何か、個性は何かと手探りしたくなるのは当然ですよね。でも、まるで接ぎ木をするように足し算をする必要があるでしょうか。
僕は個性って、自分らしい幸せ感だと思っています。例えば企業に就職することが画一的な生き方だなどと言うつもりはない。ある企業があなたと同じビジョンを持つ会社なら、そこで力を発揮するのはどんなに楽しいことでしょう。また、今のような自由な時代なら、そのビジョンを共有して仲間と一緒に起業することもできる。自分一人でだって可能だ。僕たちは働き方を選べる環境に生きているんです。
大切なのは、自分の心の底からやってみたい、ワクワクするようなビジョンを掘り出すことです。会社で、丁寧に続けたいような仕事が見つかったら毎日は楽しい。個性とはあなたが持っている価値観のことなんです。
僕は数年前に病気をし、少し無理をしていた自分を反省しました。でも多分、今の若い世代はもう気づいています。例えば庭つき一軒家や高級車が人生の目的ではなくて、家族や社会に喜んでもらえることが豊かさなんだってことに。社会は明らかに次の段階に移ったと思います。(談)