「丁寧な仕事に幸せが宿る」
武田 双雲が語る仕事―2
楽しさは手中にある
子どもは、なぜ元気なのか
僕は3歳から、書道家である母の元で書道を始めることになりましたが、厳しい師匠でしたね。名字が武田だからまずは平仮名の「た」から書くのですが、最初の一画からダメ出しされる。それもミリ単位なので、僕は何がまずいのかさっぱり分からない(笑)。体で覚えるとはそういうことなのでしょう。今ではありがたいと思えますが、ずっと楽しくはなかった。
ところが母は、書道を教える時以外はいつも子どもの自由を尊重してくれました。子どもって毎日やりたいことや知りたいことばかりなので、テンションが高いんですよね。危なっかしいし汚すしで、やめなさいと言いたくなるはずなのに母は叱らない。それは中学、高校と成長しても変わりませんでした。学校の先生が「勝手なことをするな」と注意しても、親は「まあいいんじゃない」と言う(笑)。だから僕はやりたいと感じることを大切にしてきたし、好きなことをやっている時には人間のモチベーションは下がらないとも信じています。
そうは言っても、僕も「就職をするべき」という周囲の流れに乗りました。大人になって何もかも好きにやるのは無理かなと考えたからです。もちろんやるべき義務は幾つもあるでしょう。でもそれだけにとらわれてしまわずに「好き」にしたいとも思う。葛藤はありながら、義務の中から喜びを探し出していこうと決めたのです。子ども時代に持っていたパワーって、無くしたわけではなく、埋もれているだけじゃないかと思ったんですね。
大学時代も相変わらず好きなことばかりの日々で、気づけば4年生もそろそろ終わり。友人たちはとっくに就職を決めている。それでもまだモタモタしている僕を見兼ねて、担当教授がNTTへ推薦の労をとってくださった。社会に出るってこういうことかなと背中を押された、あやふやな気持ちでの就職でした。
空気の読めない社員
NTTは忙しい会社でした。覚えることが多く、仕事のスピードも速い。先輩に教えられたことはすぐにのみ込んで行動するのがルールです。ところが僕は、つい疑問が湧いてくる。「なぜ対前年比がプラスじゃなきゃいけないんだろう?」「なぜ人は毎朝、同じ場所に集まって働かなきゃいけないんだろう?」。これは僕にとっては解決したい人生の重大事だったのですが、上司は弱ったでしょうね。
重役が出席する重要な会議の末席に座らせてもらった時、「何か意見はあるか」と上司に問われ、「この会議ってどんな意味があるんですか?」と質問して周囲を凍らせてしまったこともありました(笑)。でもそれは、僕にとっては仕事に意欲が湧いてきた兆しなんです。心理学や歴史ものからビジネス書まで、真剣に勉強し、得意先や上司にも可愛がってもらえるようになっていきました。
やがて3年余りが過ぎた頃、「字がうまいね」と褒められることが多くなりました。同僚の名を手書きしたら「初めて自分の名前を好きになれた」と喜んでくれる人もあり、書道で食べていけるレベルとまで言われました。認められたうれしさは大きく、ふと、それ楽しいかも知れないと心が動き始めたのです。(談)