「自分で見極める大切さ」
畑中雅美が語る仕事--1
就活で「私」を深掘り
やりたい仕事はどう見つけるか
本が好きな子どもでした。今でも覚えていますが、小学校3年ごろに夏目漱石の『草枕』を読み、これを読んでいる私は大人っぽいななんて思ったりして。少女漫画雑誌も大好きで、友だち4人と分担して『りぼん』『なかよし』『ちゃお』『ひとみ』を買い、回し読みをしていました。
大学時代は、演劇サークルで脚本を書いたり、演出したり、音楽をつけたりといった裏方をしていたのですが、4年生を前にやめました。私にとってはどちらでもいいと思うことで妙にもめて泣く人まで出たりと、感情的で、私の一番苦手な状況が多かったんです。どんなに好きでも居心地の悪い場所では続かないと、その時気づきました。これが就職活動への考え方にもつながりました。
私は昔から、自分にとって価値のないことに時間を割かれるのがあまり好きではありません。だからまず、就職って自分にとっては何の意味があるのかを考えました。就職は、朝から8時間近くも同じ場所で、ほぼ同じメンバーと働くこと。本当にやりたいことや居たい場所を見極めないと、私は苦しくなると感じました。
そこで思い出したのが、マーク・トウェインの小説『トム・ソーヤーの冒険』の有名な一節。塀のペンキ塗りを命じられて嫌々やっていた時、友だちが来たのでいかにも楽しそうに塗って見せたら、その友だちが自分の持っている物と交換してでもやりたいと言う。やがて彼だけでなく、楽しいことをやりたい他の友だちの行列もできて、誰もが一筋ずつペンキを塗らせてもらったという話です。
この挿話は、そんなふうに誘導したトムが賢いということと共に、仕事とは何かを伝えてくれていると感じます。やりたくないと思えばどんな作業も苦しくなり、楽しいと感じれば「遊びの時間」になる。だから私も「ああ、今日も楽しかった」と思える職場に就職しようと決めました。そうして幾つもの企業の扉をたたき始めたのです。
私の心が言う「御社、不合格」
最初に受けたのは銀行などでした。私は、世の中の動きを見て次の成長の芽を探す、いわゆる融資や投資というものを面白い仕事と感じていたからです。面接では「次はこういう企業が来るんじゃないか」といった私の着眼点を話し、面接官は終始とても楽しそうに聞いてくださった。でも「普通、そういうのは男が考えるけどね」と言われたんです。
彼は物腰も柔らかく、いかにも良い方でした。けれど逆にそれが気になった。こんなに優しい人が「それは男が考えること」と悪気なく言うほど、基本的には男性が指示を出し、女性はそれを聞くのが当たり前の会社なんだ。空気のように、それが変わることのない社風なのではないかしら。私がそんな会社に身を投じてあらがうのは難しい。そこまでの猛者ではないし、時間ももったいない。そもそも私が探し求めていたのは自分らしく働ける会社でした。
企業側だけが求職者の合否を一方的に決めるのではない、と私は思います。その時も「それは女性差別ではないでしょうか」と声に出して指摘してあげるなんていう親切はせず、心の中で「御社は、私にとっては不合格です!」とつぶやいていました。(談)