「自分で見極める大切さ」
畑中雅美が語る仕事--2
新卒は生意気なくらいで
企業には、新しい風が必要だから
就職をするからには、自分らしく働けると思えるような職場を探そうと決めて、大学生の私は就職活動に臨んでいました。最初は金融機関。融資や投資などに興味があったからです。でも面接で、男性のみがかじを取る職場のようだと感じて方向転換。次は面接時期が早いテレビ局を受け始めましたが、選考に残った他の就活生たちのハイテンションなノリに苦手意識を持ち、自分には合わない職場かも知れないと感じました。
最初にもらった内定先に何かしっくりこないと感じていた頃、出版社各社の試験が始まりました。第一志望は元々出版社だったのに、不思議なもので就活の真っただ中にいると、目先の面接や内定にそそられ自分の希望を見失いそうになります。けれど就活とは、数十年在籍する可能性のあるコミュニティーを決めることです。少しでも違和感があるなら安易に決めるべきではないと、私は内定に固執せず就活を続けました。
面接にあたり、なぜ企業は膨大な経費と時間を使ってでも新卒が欲しいのかと考えました。即戦力となる中途採用と、大学で学問を学んだばかりの新卒では実力の差が圧倒的に違います。にもかかわらず新卒を採るということは、「企業は変化の芽」を探しているのではないか。固定概念を覆して新機軸を打ち出してくれることを期待し、あえて右も左も分からない新卒を取るのではないか。
だとすれば、「御社のこの点が素晴らしく、ここで仕事をしたい」というような現状を受け入れたマニュアル的文言ではなく、「御社の強みを高めるためにここを変えたい」「私が入ったら御社の少女漫画のレベルが上がります」といった建設的なアイデアを持って面接に臨んだ方が有利だろうと考えました。少々引かれることも覚悟の上でしたが、予想以上に面接は盛り上がり、内定を受けました。
私が選びに選んで入社したのは小学館。配属は少女漫画を担当する編集部。「とんでもなく生意気な新入社員が来るぞ」と先輩たちは皆、手ぐすねを引いて待っていたそうです(笑)。
配属後すぐ、素人編集者
配属が決まった初日から、編集者としての仕事が始まりました。数カ月前まではただの漫画好きな大学生だった私が、いきなり漫画編集者に。けれど当たり前ですが、担当した作家さんからは「新人の畑中さんが担当ってことは、私は編集部から買われていないってことですよね」とはっきりと言われ、やはり自分はまだ素人で役に立たないんだなと痛感しました。
漫画好きでたくさん読んできたと自負していた私ですが、担当する漫画雑誌『Cheese!』は知りませんでした。だから自分の読書の範囲くらいでは面白いとか面白くないとかと言えるはずもない。一体、同誌を求める読者はどんな人たちなのか。急に判断に迷い始めました。受け手であることと、読者の求めに応えていく送り手との驚くほどの差に突き当たったのです。どうしたら読者の要求を知ることができるか。それを突き止めるのが第一歩だと思いました。
私は学生時代から、迷ったら調べて分析し仮説を立ててきました。なぜそうするのか、なぜそれが必要なのか。その考え方と方法論を次回にお伝えしようと思います。(談)