「どんな学びも人を支える」
初野 正幸が語る仕事----2
自分の課題から発想する
社会のニーズに目を凝らすとは
通信講座によって生涯学習を提供するユーキャンで、マーケティング全般を担当しています。当社の講座開発では時代を映したテーマが多数あります。趣味や知識などの習得のほか、キャリアアップを目指す資格講座も増え続けていますが、高齢化に伴う介護関連や、怒りをコントロールするスキル「アンガーマネジメント」など、暮らしの困り事を解決するための「ソリューション型」も相当数に上ります。
暮らしの困り事は、相談したくてもその相手や場所を見つけられないケースが少なくありません。その分、表に現れにくいのですが、ニーズに気づき開発した講座の一つに「子ども発達障がい支援アドバイザー」があります。発達障がいは診察の段階ではグレーゾーンであることも多く、支援学級がある学校も少ないようです。保育や教育の現場でも対応知識が十分とは言い難い状況ではないでしょうか。
そうなると当然、保護者や教育現場で働く方々は、子どものサポートができたらと考えるでしょう。ただ、ニーズがあることは分かっていても、通信講座として世の中に出していいものかと悩みました。講座開発には、監修や指導のできる専門団体との協業が必要です。その存在は確認できたのですが、テーマとして踏み込みすぎていないかという危惧もありました。
しかしアンケートでの反応がかなり高かったため、思い切って講座を開講してみると、当社の人気講座10位以内に食い込むほどの反響となったのです。この講座開発で私たちもまた学ぶことができました。暮らしの困り事の答えは、スクールなどで学ぶ機会は少なく、かといって簡単に人に相談して解決できるものではありません。だからこそ、悩んでいる個人に寄り添い、知識や実践法を自宅で学べる通信講座の利点が生きてくるのです。
もう30年以上この仕事をやっていますが、講座開発は実に難しいものです。いまだに分からないというか、これならいけると開発しても、お申し込みが少ないということもたくさんあります。実際には打率3割に届かないかもしれません。だからこそ、自分たちが感じている世の中の課題にしっかりと向き合う必要があると思っています。
ハードルが高かった転職事業
当社は様々な工夫を尽くして、通信講座でスキルを身につけたり、資格を取得したりするためのお手伝いをしてきました。その中で私は30代半ばの頃、受講生のその後の転職や就業もフォローできないだろうかと理想を抱き、自社の新規事業となる転職サービス立ち上げの責任者になりました。ちょうどインターネットが台頭してきた時期で、会社からのゴーサインも受け参入を試みたのです。
当時から広告露出は多かったので、その手法でお客様をつかめるだろうと見込み、大きな予算を組んでCMを放映し、折り込みチラシも全国配布しました。ところが、ふたを開けてみると、求人企業のニーズは当社の受講生層とはマッチせず、求人票は思ったよりも集まりませんでした。当然、求職希望もほぼありません。振り返ってみればコンサルタント頼みの部分も多く、勢いで新たなビジネスに踏み込んでしまったのです。損失も大きく、手痛い失敗となってしまいました。
仕事には、自分自身が主体となって責任を取る覚悟がいる。今もそれを肝に銘じています。(談)