「人類の課題に挑んでみたい」
岩元 美智彦が語る仕事--2
古着をバイオ燃料に変えた
革新技術をどう生かせるか
20年近く勤めた繊維商社を退社し、私は2007年に40代半ばで起業。「石油に変わる資源を服から作る」とリサイクルの実現を目指しました。日本では1995年に容器包装リサイクル法が制定され、家電、食品、建設資材、自動車と各分野が続きましたが、繊維製品はリサイクル技術がないという理由で制定されませんでした。しかし繊維の廃棄量は年間約100万トンとも言われ、冷蔵庫や洗濯機などの大型家電ゴミの合計量より多いのが現実です。
私は何か方法があるはずだと諦めきれませんでした。起業前に得たヒントは、アメリカでトウモロコシからエタノールなどのバイオ燃料が作られたという新聞記事。植物なら綿も同じではと、お金がないので古着Tシャツや綿ゴミを集めました。工場を安く貸してくださる応援者を得て、パートナーの化学研究者は様々な実験を続け、起業約1年でエタノールの抽出に成功。幸運にも着古したTシャツだからこそ、直接素材に働きかけることができたのです。繊維は燃料になり得る。世界に先駆けて私たちはその技術開発に成功しました。
それはどれほどうれしかったことか。大量の衣類廃棄物からバイオ燃料を作る夢がかなったのです。地下資源である石油などを用いなくても、自動車は走るし飛行機も飛べる。地下資源が原因で起きる戦争までもなくせる。それが目指すリサイクルの未来であり、この技術で環境に貢献する大きな可能性が生まれます。私は勇んでいくつもの会社や官公庁を訪れ、取り残されていた繊維リサイクルへの協力を求め続けました。ところが耳を貸してくれる所はほとんどありませんでした。
世界に通用する特許技術ですが、社員わずか数人のベンチャー企業で本当に成功できたのか信用されなかったのでしょう。また、これから先、原料となる大量の古着をどうやって集め続けるか。私はまだその方法論を持っていませんでした。ただ、このリサイクルをもっと生活者に根ざした行動に育てていきたかったので、新技術を他企業に任せるということは考えなかったですね。
リサイクルの回し手になる
服を資源にする技術は、古着を多くの皆さんから回収する仕組みがなければ絵に描いた餅。そんな思いで協力を求めて回る日々の中、ついに理解してくださる大手企業経営者と巡り会いました。その方は「小売店やメーカーが物を売るだけの時代は終わった。これからは使い終えたものを集めるところまでやって初めてお客さんが来てくれる」と看破なさった。
そのリサイクルの仕組み構築、つまり循環型社会の回し手(ハブ)が必要なのだと思い至りました。メーカーは限りある天然資源を使って服を作り売る、消費者は購入して不要になったら捨てるという以外に具体策がない。こんなふうに互いがブツブツに途切れたままでは循環とはほど遠い。リサイクルは文句なく正しい方向だと誰もが理解しているはずですから、実現のためには生活者にとって「正しい=楽しい行動」にしていかなくてはならないのだと腹を決めました。
手元にある使わなくなった物を「資源に戻す」、そんな気持ちのいい暮らし方を実現するために。(談)