「人類の課題に挑んでみたい」
岩元 美智彦が語る仕事--3
専門の壁にしばられない
リサイクルへ誘う仕組みを
繊維製品のリサイクルが取り残されているなら、自分が挑んでみようと起業しました。古着Tシャツや廃棄繊維で実験に明け暮れ、約1年で世界に先駆けてエタノール化に成功。自動車を動かせるバイオ燃料ができたのです。喜び勇んで多くの会社や官公庁に繊維リサイクルへの協力を求めて奔走しましたが、手応えはほぼありませんでした。
それなら、この技術を元にしたリサイクルの流れを自身で構築しなければと考えたのです。古着はほとんどの家庭にあり、それをただ捨てて欲しくはないけれど、消費者意識はどうだろうか。また、メーカーや小売企業には古着回収のメリットがあるかなどと思案し、私たちは、中小企業基盤整備機構が行う繊維製品のリサイクル調査事業に応募することにしました。消費者の意識を知る絶好のチャンスだと思ったのです。
大手小売企業数社の協力を得て店頭に古着回収ボックスを置き、一定の期間調査した結果は先行きに希望が持てるものでした。たくさんのお客様が古着を持ち込み、消費者アンケートからも「リサイクルをしたい」というデータが取れた。また、協力店舗の総売り上げが約4%も伸び、リサイクルで来店したついでに買い物をするという導入効果も証明されました。
驚いたことに、アンケートでは自分が買った店にリサイクル品を持っていきたいという声がトップ。真のファンは最後のリサイクルまで、気に入った服を購入した店でと思っていたのです。大切だった物を戻すこの行動が今後、循環型社会の軸になるのではないでしょうか。
そして調査事業を通じて、私はリサイクルを事業化し、ブランドを作りました。リサイクルしましょうとただ回収ボックスを設置するだけでは風化してしまう。だから、お客様の心に残るように「あなたの服(FUKU)を地球の福(FUKU)に」というコピーを掲げた「FUKU-FUKU」(現・BRING)ブランドです。循環への思いを込めてマークはハチ。技術開発の領域から街の中へ、生活に近づく仕組みが生まれました。
携帯電話の廃棄も課題に
繊維リサイクル事業がようやく軌道に乗った頃、私は膨大な数の携帯電話がリサイクルされていない課題にも取り組み始めました。携帯電話には金・銀・銅やレアメタルなど、「都市鉱山」と呼ばれるほどの資源が含まれています。何とかできるはずだと調べずにはいられませんでした。そして、金属を取り出すために有用な眠っている技術がすでにあることを知りました。
この技術で効率的に携帯電話も資源に戻せたのです。あとは企業の扉をたたくのみ。大手携帯電話会社さんに猛烈なアプローチをして使用済み携帯電話のリサイクルを開始しました。さらに、繊維製品の中で最も製造量が多い石油由来のポリエステルを分解し、染色剤などの不純物を除去することで何度でもリサイクルできる技術開発にも成功しました。社員の頑張りには頭の下がる思いです。
元営業職の会社員だった私は、技術開発も広報やプロジェクト立ち上げも素人でした。それでも学び、動けば前へ進める。仕事の力は日々獲得できるものだと思います。(談)