「仕事は人生を楽しくする装置」
川村 元気が語る仕事―4
想像の外側に答えがある
面白いことが起こりそうな場を作る
映画製作においてまず大事にしていることは、脚本、監督、音楽、キャストなどの組み合わせです。作家の沢木耕太郎さんとお話しした時、「ソロで働け る人間が集まって作ったチームは強い」と語っておられたのですが、そこは僕も常に意識しています。誰かに依存せず自分で行動できる人たち同士は、個性が強 いので時にぶつかり合ったりもします。でも、それ以上の化学反応を起こし、思いもよらぬ素晴らしい結果が生まれる瞬間を幾度となく体験してきました。
公開中の『寄生獣 完結編』も、日本を代表するトップクリエーターたちが各所から集結したことで、今まで見たことがないような映画が出来上がったと思っています。
僕はものを作る時、「何か面白そうなことが起こりそうな場」を作ることをいつも考えています。そういう場には優れた仲間が自然と集まってくるし、それぞれがその場を盛り上げて最高のパフォーマンスを発揮してくれるので、作品のクオリティーもがぜん良くなる。
企画段階で共感者が少ない時は、そこが面白い場になっていないと考え、企画を取り下げることもあります。目の前のスタッフから共感を得られないのに、その先にいる数百万という観客を感動させるのは難しいと思うからです。
座右の銘は変わっていく
映画を10年近く作ってきて「こういう風に作ればこのくらいの映画になる」というのが見えた気がした時期がありました。もちろんそんなものは勘違い ですし、そんなことでは面白いものは作れない。これは一度外の世界から映画を見ないと、何が面白くて何がつまらないのかということに気づけなくなってしま う。そんな恐怖心から、小説や絵本を書き始めました。
その中の初小説『世界から猫が消えたなら』で書いたテーマですが、人間というのは、悲しいかな失ってみないとその価値に気 づかない。故郷を離れて初めてその良さに気づく、そういう生物なんだと思います。だからこそ僕は、全くジャンルの異なることに挑戦し、外から映画を眺める ことで映画の良さに改めて気づくことができました。自分の新たな考え方を、視点を切り替えながら引き出していくことが、今の仕事を楽しくする力になってい ると思います。
小説を書いてみて改めて思ったことですが、普段自分が思うこと、考えることというのは一定の枠の中だけで完結していること が多い。悩んでいることや本当に求めていることの答えは、自分の理解の範疇(はんちゅう)を超えた先、想像の外側にある気がします。案外そういう場所に 「これだ」と思える答えや、自分が本気で面白いと確信できるものが落ちていたりするんです。
たまに「座右の銘」を尋ねられる時がありますが、いつも答えに窮してしまいます。今僕たちが暮らす世界は、年齢と共に環境 も心境も目まぐるしく変わっていきます。そんな中で、10代から20代、30代とずっと座右の銘が一緒であるはずがないと思っているんです。同様に、仕事 というものも絶えず変化していくものです。一つの考え方に固執せず、柔軟に仕事に向き合うほどに人生の楽しさは増す。「仕事が自分の人生を面白くする装置 になる」。僕はそう信じています。
出典:2015年4月26日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面