仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「自分から変化していくしかない」
北川 達夫が語る仕事--2

就職活動

人は自分が正しいと思う

価値観が根本的に違う驚き

中高時代はバロック音楽などの演奏再現に夢中になり、音楽で生きていきたいと思っていましたが、自分の才能に自信がなくなったこともあって諦め、大学は法学部、就職は外務省を選びました。本当は、規則づくめでしがらみのある外務省は嫌いだったのですが、まだ芸術への未練が残っていて、文化外交ができるのではと期待したからです。
 そんな願いも若いうちは無理だと一蹴され、上下関係の厳しい環境で膨大なルーチンワークを延々とこなす日々でした。そして25歳から在フィンランド日本国大使館勤務に。ここでの仕事も十数人の日本人外交官と共にほぼ地道なルーチンワークです。ところがある日、他国の女性外交官と一緒に仕事をすることになったのですが、会った瞬間に「あなたとは友だちになりません」と明言されたんです。理由は「あなたたちは神様を信じていないから」だと。
 仕事相手ではあるけれど、絶対友だちにはならないと言われて「なんだ、こいつは」と僕は驚きました。ただそのうちに彼女の行動原理が分かってくる。信心深く真面目な人なのです。いいことがあると神の奇跡だと言い、悪いことがあると神が自分に与え給うた試練だと言う。重い病気になって手術で快復した時も神の奇跡だと言い続けていました。
 ついには、僕に「あなたは神様は信じていないが、いい人だ」と言う。この言葉に、彼女の決して譲れない価値観を見た思いがしたものです。
 僕が大使館勤務で学んだことの一つは、「相手とは分かり合えない」という前提で考えること。余計な期待をしないほうが、むしろ人間関係がつくりやすいのです。
 異文化理解で危なっかしいのは、アメリカ人だからこう考えるだろうとか、ドイツ人ならこう言うでしょうとか、自分が持っている知識や先入観でくくって接することですね。良い誤解でも悪い誤解でも、すれ違えば相手のせいにしたくなり、修復に時間もかかる。そもそも何の共通点もない、分かり合えない宇宙人のような存在だと冷静に引いて対話すれば、相手の発想や行動の前提が見えてくると思います。

日本の要人からの気づき

海外で在任中に度々僕が困惑したのは、日本から訪れる政治家や財界の人たちが、外交官の通訳なしでは何も話さないということでした。しかも通訳をして驚いたのは、日本側からの話が人脈自慢や持ち物自慢など世間話なのです。フィンランド側は「せっかくの機会に本当にそんなことを言っているのか? 対話はしたくないのか」とけげんな様子。世界の国会議員会合などで通訳がつくのは、僕が在職した当初は日本と中国などでしたが、そのうちに日本だけになってしまいました。
 日本はこのままではまずいのではないかと不安を募らせたものです。そんな時、フィンランド教育省の友人が「国を変えるには二つの手段がある。一つは革命、もう一つは教育だ」と言うのです。フィンランドも教育で変われたのだ、時間がかかるけれど国は変わり得ると。僕は外務省を辞め、教育分野へ行こうと気持ちが固まっていきました。(談)

きたがわ・たつお ●Space BD株式会社シニアアドバイザー、星槎大学客員教授。1966年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、外務省入省。在フィンランド日本国大使館在勤(1991~98年)。帰国後に退官。国際的な教材開発技術者として、日本を含む各国の教科書・教材を開発。現在は宇宙飛行士の訓練法を学校・成人教育に応用する方法を開発中。著書『苦手なあの人と対話する技術』ほか多数。
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