「頑張りではなく仕組みが要る」
中村朱美が語る仕事--3
従業員をファーストに
経営側は甘えていませんか?
そんな商いが成り立つのかと周囲から半ばあきれられながら、素人夫婦で始めたステーキ丼専門店。一日100食限定と決め、苦戦したスタート時にお客さんの口コミに助けられて店は何とか軌道に乗りました。私たちのビジネスプランは、売り上げを追うのではなく、上限100食という「制約」の中で従業員と共に幸せに働ける仕組みに挑戦するものでした。
飲食業界を始めとする場で、長時間の過酷な仕事が日常化していることに私はずっと疑問を持っていたからです。その要因は、自社を存続、発展させたい経営側の欲ではないか。働く時間を目いっぱい増やして売り上げを伸ばしても、社員にはあまり還元されないという現状が耳に入ってきます。私は、そういう会社発展のための「業績至上主義」に強い違和感があり、それとは真逆の会社を作り上げたいと思ったのです。
やがて一日100食の経営は、試行錯誤を経て幾つものメリットを生み出しました。1.ランチを売り切ったら営業終了。後片付けをして退勤時間は毎日午後5時台。2.メニューを絞りフードロスはほぼゼロ。経費も削減、冷凍庫も要りません。3.圧倒的な少数商品力で仕入れや経営が簡略。4.調理とサービスがシンプルで誰でも即戦力。5.売り上げ至上主義に追われない穏やかな働き方、などです。
想像してみてください。「さあ、今日も100食を売り切りましょう」と営業をスタートし、遅くとも午後2時半には閉店です。片付け、清掃などを終えて夕方外が明るいうちに帰宅するうれしさ。お給料も働きに見合い、さらに時間のゆとりも十分に。売り上げは会社の経営と従業員の暮らしを賄えればそれでいい。店を増やさなくても、規模を拡大しなくても、会社と従業員が互いにパートナーとして支え合うというビジネスモデルは実現できると思います。
従業員の給料と時間を搾り取って、売り上げを追いかけ続けても健全に成長しない、うまくいかない。多くがそんな現状ではないでしょうか。そもそも、就業時間内に利益を出せない商品や企画は見直さなくていいのでしょうか。きっと気づくことがあるはずです。
気づけばダイバーシティー企業に
午前9時から午後5時まできっちり働いて、家族と一緒に晩ごはんを食べる。そんな働き方をしたい。それが私自身の願いであり、多くの人の望みだと思っています。また、介護や育児、家庭での役割、趣味など、人には一人ひとりそれぞれの事情や大切な時間がある。私も2人の幼い子の母親です。
ですから働く時間の制限や年齢、体力などに様々な条件があっても就業して頂けるように、私はシフトの仕組みなどを徹底して工夫しました。従業員の採用時には、じっくり事情を聞きながらその仕組みを使って一生懸命に働いてくださる方を採用しています。やがて当社は、若い男性から70歳過ぎの主婦まで、人材の年齢や条件が多様なダイバーシティー企業として表彰を受けました。
100食で終了。今日もそれが実現するように誰もが持ち場で工夫し、まるでゲームのように「あと、15食」などとカウントするのも働きがいとスタッフは言ってくれています。(談)