「アートは営み、デザインは知恵」
中山 ダイスケが語る仕事--4
距離を乗り越えて
移動して発見する価値
複数の仕事を本業としてこなす働き方を「パラレルワーク」と言いますが、僕はそれを三つの拠点で実践しています。山形の東北芸術工科大学で教育、東京にあるオフィスで商業デザイン、そして鎌倉の自宅周辺では畑や井戸掘りなどのプロジェクトに関わっています。この3拠点を行き来しながらずっとそれぞれの仕事に携わってきました。ところが今、コロナ禍で外出自粛が始まり、安易に移動できない生活が続いています。
そういう中で改めて感じたのは、移動しながら働くことの意味の大きさです。その場所へ行かないとできないこと、出会えないものを求め、時間をかけて向かうことがいかに尊いことなのかと気づかされました。確かにどこにいても日本中のおいしいものはネットで買えるし、イベントもリモートで楽しめます。その便利さをこの数カ月で痛感した僕らは、今後無駄な移動はしなくなるでしょう。
でも、だからこそ移動することの価値は高まると思います。まだまだ気をつけるべきは気をつけ、ある程度の移動制限が必要な状況ではあります。ただ、あくまで僕の持論ですが、このような世の中でも、心のどこかに「動きたい」という移動欲求は持っていたいし、大事にしたい。いたずらに「動け」と言うつもりは全くありませんが、誰かが「動きたい」と言ってきたら、変に抑制をかけず、「いいよ、もちろん安全にね」と言えるリーダーでありたいと思っています。
程良い距離感で助け合う
元々僕は色んなアイデアを出すことも、それを形にすることも大好きでした。そんな特性を生かすべくアーティストやデザイナー、大学の先生など色々な仕事をしてきましたが、一貫したテーマとしてあるのは人との間合いや距離、関係性です。
特にそのことを意識したのはアメリカにいた時でした。アメリカ人は会った瞬間から親しげに接してきます。日本人の心の距離感とはちょっと違います。僕自身フレンドリーではありますが、やや臆病なところもあり、そういうささいな距離感を結構気にするんです。芸工大の学長の現在なら、学生とどう接するかや一人の教員としてはどうかなど、微妙な距離の取り方を考えたりします。
コロナ時代の今、先のことは誰にも分かりません。分かっているのは前には戻らないだろうということ。次がどうなっていくかを探りながら進んでいくほかないわけです。こんな時に見直したいのも、やはり人との距離感や関係性。今はソーシャルディスタンスを保つことが求められますが、心の部分では昔ながらの助け合いの精神を持ちたいところです。
例えば航空会社や自動車会社が、それぞれのライバル同士で協力し業界全体の活気を取り戻すような努力をするとか。この際、企業の秘密もオープンにし、場合によっては社員をシェアするといったやり方もあると思います。ITシステムに適応して生き延びようとするのではなく、昨日までの敵と手と手を取り合っていくのが新しい乗り切り方ではないかと。それもまた「僕たちの生活に必要なものをデザインする」ということなのです。自由で柔軟な発想や助け合いで、明るい未来へと続く道のりをデザインしていきませんか。(談)