仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「仕事は自ら作っていける」
古舘 理沙が語る仕事--1

就職活動

26歳で落語にハマる

大学院入学に挫折、就職に焦り

私の現在の仕事は、夫でもある講談師・神田伯山のマネジメントや、YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」の制作・プロデュースなどです。伯山は今年2月に真打ちに昇進し、六代目を襲名しました。かねてから「何としても講談の奥深さ、面白さを多くの人に知ってもらいたい」という強い意志を抱き、私たちはその目標に向かって、これからの様々な試みを更に模索しているところです。
 
と言いつつ私は、20代半ばまで落語も講談も聞いたことがなく、寄席演芸というものに触れたことがほぼありませんでした。中学時代にフランス語を習い、年を経るごとにスペイン語、イタリア語、そして大学の先輩に誘われてラテン語の世界にも引かれていきました。もっと西洋古典の研究をしたいと大学院を目指しましたが、不合格で断念。一方、早くから就職活動をしていた同期たちは、しっかり希望企業に入社していました。

 
研究者になるつもりだった私は、就職という選択肢を持っていなかった。それでもまず食べていかなくてはという状況。就活をしていなかったので、この時初めて私には行く当てがないと焦りましたね。それで正社員ではなかったものの、まず世間を知ろうと(株)リクルートで営業を半年、その後、編集という仕事に興味を持って出版社を受け職を得ました。
 
就職後2年ほどの頃です。当時担当していた雑誌の想定読者は、年に数千万円以上を稼ぐようなベンチャー経営者や投資家ら。当然ギラギラした部分がある競争の世界なので、新しい情報やビジネス記事を求められます。
 
厳しさを感じながらも編集者として頑張っていたある日、宣伝会社の人に誘われ、東京・上野の鈴本演芸場へ初めて落語を聴きに行きました。驚いたことに当時、客席でご飯を食べ、ビールを片手に目の前で演じられる演芸を楽しんでいるんです。私の仕事の世界とは全く逆。「ここは楽園だわ!」とその緩やかな空気感に癒やされ、寄席通いがやみつきになりました。

給料の半分は落語に

仕事は紹介された別の出版社へ移り、イベント企画や催事進行を担当していました。その傍ら、寄席に通って色々な落語家さんを知り、落語の魅力にハマり、私の生活は激変。こんなに奥が深く、面白い話芸にもっと早く出会いたかった。その残念さを取り戻すように、平日の仕事後は都合がつけば足を運んで、週末は昼の部と夜の部の両方は当たり前(笑)。給料の半分を落語につぎ込む日々です。
 
ただ私は、ずっと会社勤めを続ける自分をイメージしていなかった。どこかで、生涯をかけられる仕事を自分の手でやりたかったのです。
 
落語に26歳で出会ってから4年。夢中になって寄席に通い、地方まで追っかけもし、それでもなお飽きることがない。それどころか、こうすればもっとお客さんを呼べるとか、喜んでもらえるとか、会場やグッズのことまで気になるようになっていました。制作する目線でウズウズする(笑)。自分の仕事を考えれば考えるほど「落語の世界」に行き着いてしまうのです。
 
落語会を主催して、この世界に人を呼ぼう。そう思いついたら止まらなくなりました。仕事の肩書は「興行師」、屋号は「いたちや」。なかなか無謀な出発でした。(談)

ふるたち・りさ ●冬夏(株)代表取締役社長。1981年兵庫県生まれ。国際基督教大学卒業。(株)リクルートにて営業職を半年務め転職。雑誌『VOGUE』『GQ』日本版の編集者を経て、落語に魅せられ2010年に「寄席演芸興行 いたちや」を創業。20年まで興行師として活動し、現在は講談師・神田伯山のマネジメントや、YouTubeチャンネル「神田伯山ティービィー」の制作・プロデュースなどを手がける。同チャンネルは19年度のギャラクシー賞テレビ部門フロンティア賞を受賞。
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