「日本のスタンダードを創る」
重松 理が語る仕事―3
販売はクリエーティブ業
小さな感動経験を蓄える
前回、例えばスーツは「グローバルな言語」だと言いましたが、なぜならそれは、その人らしさを語る様々な表現が目に見えるからです。もちろんスーツに限りません。しかし、この「その人らしさ」「自分らしさ」が曲者で、自分自身ではなかなか分からないことが多い。好きな服が似合う服とも限らないので、世の中にあふれる大量の衣服の中から、自分の一着を探し出すことに苦労する人は数え切れません。
その一着を探し出すプロの仕事が販売職ですが、実はこれほど理解されていない仕事は少ないと、私は感じています。衣服だけでなく、どのような販売職にも商品とお客さまのベストマッチングを探り出す、とてもクリエーティブな仕事力が必要なのですね。商品の個性を知り尽くし、それがどのような作用を発揮するか、お客さまの「らしさ」と希望にどう合致するか。単なる仲介ではない、それを超える存在でなければならないと思います。
販売やサービス業でキーワードとなるのは、言い尽くされているかも知れませんが「感動」です。でも、これが一筋縄ではいかない(笑)。会社の本部が作った仕組みではなく、現場でお客さまと販売員の一対一で創り出されるナマモノです。感動の仕事力とは、お客さまの期待値をわずかでも超えること。おそらく、あらゆる業種業態に通じることだと思いますね。
その力をつけるには、まず自分の引き出しを多くすることです。小さな体験でも意識して記憶にとどめ、自分はその時何を感じたのかということを言葉にしておく。あなたが心に感じたものは、形を変えてサービスに転化することができます。自分を含めて人をよく見つめ、そこで得たものをストックしておいてください。
未提供の価値を探そう
仕事の価値とは、全く新しいことを次々と手掛けるのではなく、まだ社会やお客さまが満たされていない隙間を探す視点を持つことです。自分の仕事の中で、社会が不足感を抱いているのはどこか。その不足感を充足していくことが仕事というものの本質であり、長いビジネスの歴史なのですね。
例えば、海外出張を命じられる。商談は本社なのでもちろんスーツを準備。ところがそこで「週末に自宅で気軽なパーティーをしますから、ぜひ」と誘われたらどうするか。日本ではほとんどないような状況ですが、グローバル社会では珍しくありません。少なくしたい出張荷物の中に、そんな備えに対応できる一着をご提案できたら、販売がいかにすごい仕事なのか分かって頂けるかも知れません。
目の前のお客さまと会って、実はまだ本人も気づいていないような問題を発見する。それをあなたが解決する。仕事のやりがいの大きな柱がそこにあると思います。そしてまた、その細やかな着眼が実は日本の底力です。誤解を恐れずに言うとサービスで日本にかなう国は世界にないと思うし、誠実な販売力も、多分トップクラスです。
もの作りも優れていますが、商人文化も半端ではありません。サービス精神は、日本人の一人ひとりが潜在的に持っている資質だと思いますし、これを言語化して世界に伝えたい。販売は、とんでもなく素晴らしい仕事だと知って欲しいですね。(談)