「日本のスタンダードを創る」
重松 理が語る仕事―4
マニュアルからの脱出
粗削りでも、自分流の誠意で
どうすれば商う力が上がっていくのか、サービス力が上達するのか。世界各国、もちろん日本でも数限りない本が出ており、セミナーやトレーニングも盛んに行われています。当社もいろいろな研修やトレーニングを導入し、継続的に取り組んでいます。
それでも私は、靴の上から足をかくようなもどかしさを拭えません。ある一定のレベルまでは販売力が上がっていきますが、実はそこをさらに超えて、お客さまを心から感動させ、販売する自分も感動するにはどうすればいいのか。販売を一生の仕事と志して一流になるには何が必要なのか。私が納得できる技術体系はまだ言語化されていません。
「おもてなし」は日本のキーワードですが、できれば世界に届けられる技術として分析し、言語化や数値化にこぎ着けられたらどれだけ貢献できるだろうか。それを何とか実現したいと、私は今悪戦苦闘中です(笑)。
しかし、それは詳細なマニュアル化でもなく、トレーニングメニューでもありません。基礎をきちんと習得することは大切ですが、そこから先の自発力というか、その人らしい感受性を伸ばせるような考え方を伝えたい。難しいですが、茶の湯でいう「一期一会」を理解してもらうことに近いかも知れません。
私たちの業界には、接客を競うコンテストがあります。舞台上に簡易の店頭が設定され、顧客の要望に販売員がどう対応するか審査します。私もこの審査員を何年かやらせて頂いていました。しかし、優秀者を選ぶ基準に、私は独自の視点がありました。確かに良い接客でも、磨き抜かれたトレーニングの型が見え隠れするよりも、私は「粗削りだけど、何か良いな。いいところ突いてるな」と感じる販売を良しとしたいのです。
本気で綿密に
自分の能力をフルに使って、今目の前にいる人の問題解決に知識や技術を注ぎ込む。マニュアルに書いていないことでも、トレーニングを受けたことがないことでも、とにかく自分にできることは何でも本気でやってみようとする。それが仕事の力をグイグイと伸ばしていくのだと思います。
これっきりでもうお目に掛かれない人かも知れない。お客さまにとってそれは最重要な選択かも知れない。失敗も、喜んで頂いたこともひっくるめて、自分へのジャッジを自分でしてみてください。例えば一生懸命になりすぎて、暑苦しい接客になってしまうとうまくいかないから変えてみようとかね(笑)。自分の強みと弱みをはっきり認識していくと、それは数字にも表れてきます。この能力はどこでも通じます。
そういう私もいまだに、ビジネス人としての高みとは何だろうかと考えない日はありません。衣服を販売する仕事を夢中で続けてきましたが、振り返ってみればまだまだ販売職は途上にある気がします。でも、それほど高度でやりがいがあり、感動がある仕事だということを伝え、プロフェッショナルが多く育つ業界にしていきたい。
世界を巡り巡ってビジネスをしてきて、日本の、思いのこもった販売・接客は本当に財産だと実感しています。だから若い人には、自信を持って新しい仕事へこぎ出して欲しい。(談)