就職活動

シューカツ見聞録

石川怜さん

北海道出身。高校卒業と父親の転勤を機に上京。大学では英文学を専攻し、シェークスピアのオセロを卒論のテーマに。趣味はピアノのほか、高校まではバレエに励んだほか、茶道部にも所属。インドア派と思いきや、実はアクティブという。

第5章 地上に降りた天使(中)

「教えることが天職?」

黒髪をなびかせ、笑顔を武器に臨んだ就活。虚実ないまぜの情報が飛び交う中、狭き門をくぐり抜けるのは、クラシックピアノの演奏に没頭している時が何よりも幸せという身には、やはりきつかった。実は、就活中は親しい友だちと会うのも極力避けた。情報を交換など協力し合い、励まし合えば助けられることも多かったと思うが、いろんな話が耳に入ってきて右往左往させられるのがイヤだったのと、友だちの慰めや優しい言葉に甘えて、就活に身が入らなくなると思ったからだ。同じ大学の仲の良い子と話をする時は就活に触れず、完オフで遊ぶ日と決めていた。

民間の就活ゼミを支えに

その代わりに頼ったのが、成蹊大のOBが始めたという就活を支援する民間の「キャリアデザインゼミナール」。20大学から41人が参加していたが、月5000円ほど払って面接のノウハウや企業研究、講師や学生同士のディスカッションを受ける。これが自分に磨きをかけることにつながったと思う。例えば、友だちと面接の練習をしても最後は「よかったよ」「がんばろう」で終わってしまう。だが、ここでは面接のあとに必ずフィードバックがあり、「話の方向性がずれていたよ」などと一切の妥協がなく、自分にぐさっと刺さる言葉が返ってきた。週何回通ってもいいのだが、その厳しさが逆に気に入って週3回は通い、与えられた課題に挑戦していった。

「あなたにとって仕事とは何だろう」という質問を受けたこともあった。すぐに答えられなくてまごまごしていると、「もうちょっと就職することの意味を考えた方が良いんじゃないか」と突っ込まれた。確かに、周りに流されるまま就活をしていたのかもしれない、だから、これまでうまくいかなかったのか……。

ある会社を受けた時のこと。その会社は子どものころ、近所で開いたイベントに参加したのをきっかけに親しみを覚えていた関係で、希望職種に「人事」と書いたのだが、面接で志望理由などを聞かれて、大人から子どもまで親しまれている会社だからと言ったところ、面接官からこう切り返された。「あなたの場合、イベント企画の仕事が向いているんじゃないですか?」。人事から外れた話をして大失敗。一次面接で落ちた。

では、本当にやりたいのか?

自分を見つめ直して出てきた答えは、もともと興味のあった教育だった。なぜ、人事の仕事を志望したのかといえば、社内で人を育てることに関係するからだ。就活ゼミナールの代表の人が独立前、ある会社の人事に在籍していた経験談を耳にし、そのつらさも含め、社員の人生を左右するという影響の大きさに触れたことも大きい。

人の成長にかかわりたい

将来の備えとしての教師の免許を受けたのも、母が英語教師だったことも関係している。ただ、教育実習の現場で見たこと、さらに休日にも学校とやり取りをしている母の様子や口をついて出る愚痴から、学校というところは勉強に加えて日常生活の規律を守らせることにずいぶんと時間と労力を割くんだなと感じ、気持ちがあまり動かなかった。

その母からは教師に向いていると言われたことがある。母と一緒にエアコンの掃除をしていた時のこと。やり方が分からなかった母に対し、自分が一度こびりついたホコリを取るためにスプレーをかける実演をしてから、「じゃあやってみて」とやらせて根気強く母の上達を促したことが、とても「教え上手」と映ったらしい。

先輩とか後輩とかに関係なく人と深くかかわってお互いに高め合い、その人の成長、上達を見守るのがうれしい。教育実習のあと、その中学校から声がかかって「学習サポーター」となり、放課後に2年生の生徒の勉強をみるのも楽しかった。

自分なりに仕事への熱意は強かったと思う。総合職はもちろん、一般職にエントリーした場合でも総合職並みにバリバリ働けそうな会社を選んでいた。ところが、面接では「あがり症」が邪魔をして、そんな思いが空回りをしてしまった。面接を受けた結果をフィードバックしてくれる会社からは「目線がバラバラになっている」と注意されたことも。自信がないように見えたらしい。

苦戦続きの就活だったが、就活ゼミナールの人からは、「最終的に納得したところに決めればいいのだから焦らずに」とアドバイスをもらい、落ち込みを最小限に抑えることができた。大手にこだわらずにとも言われたが、航空会社のグランドスタッフとしての理想が現実になった。今は張り切って研修を受ける日々が続いている。

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