就職活動

シューカツ見聞録

田村雅希さん

長野県出身。高校までは野球一筋。しかも、自転車通学という限られたエリアでの生活から一転、大学入学で大都会で暮らし、サークルやアルバイトなどいろんな経験をしたことをきっかけに、より広い世界を舞台に仕事をしていきたいと思ったという。

第6章 熱くなれ(上)

「『公』のために働きたい」

採用面接とは、質問に対する受け答えをすればいいとばかり思っていた。ところが、面接官の方が執拗(しつよう)に食い下がってきた。

ある日の面接の朝に報じられた「韓国政府のコンピューターシステムに対するサイバー攻撃」のニュースについて聞かれ、当たり障りのない答えを返すと、「それは違うんじゃないか」と言われ、議論が始まった。大学でのゼミで、企業の災害時対応や事業継続計画について学んだことを話した時は、次の面接でなんと、その分野を専門とする人が面接官となって、1対1の突っ込んだ意見交換となった。

「面接というより、ディベートをしているような雰囲気」と感じた。そんな面接がリクルーターによる面接も含めて10回。3日~4日おきに呼ばれただけでなく、1日に何時間か間を置いて4回も面接があったことも。「ちょっと休憩してきて」と言われて、近くのカフェで待機していると連絡が来た。

圧迫面接なのかと思ったこともあった。だが、批判されて落ち込んだりふにゃっとなったりしたら、不適格の烙印(らくいん)を押されるだけだと客観的に考えた。「ここで負けるわけにはいかない」。くじけない姿勢をアピールし続けた。その姿勢が評価されたのか、「君はすごく熱意があるね」とほめられた。勉強の面ではライバルに劣るかもしれない分、熱い気持ちを伝えようとしたことがよかった、と振り返って思う。

タフでなければ

議論の中身も濃く、体力的にもへとへとになった就活だが、政府系金融機関はこれだけタフでないと務まらないのかと、入社後の生活に思いを馳せた。自分が目指す道は、専門分野のプロだ。まずは、営業や調査、広報など、いくつかの業務を順番に回って体験し、適性評価などををみて、その後はある特定の業務に徹することになるという。転勤もある。でも、大変だとはこれっぽっちも思わない。なんとなく業務をこなしていくよりも、生涯、勉強をして自分を高めていきたいから。

経済学部では会計ファイナンス学科に所属し、簿記2級とファイナンシャルプランナーの資格も取った。故郷・長野で両親ともに銀行勤めをしている。祖父母も財務関係の仕事をしていた。子どものころから、金融や経済の話を聞かされて育ったことが、進路先として銀行をめざすことにつながった。

「半沢直樹」のドラマを見るまでもなく、企業への融資でその会社の業務を支援できることをかっこいいと思っていた。でも、40年働くとしてその間、自分の持つ熱い気持ちが冷めることなくエネルギーを燃焼し続けられる仕事を考えた時、「公」のためということを強く意識した。日本の社会全体のため、あるいは地域の経済、人々の暮らしのため。城山三郎が、実在の旧通産省の役人をモデルに書いた「官僚たちの夏」を読み、そのドラマが記憶に強く刻まれている。自分本位でなく、広く全体を考えて働く官僚の姿が印象的だった。

兄もある自治体で働いている。公務員ってまったりな感じかなと思っていたが、帰宅してからも机に向かって勉強しているのを間近に見て、公的機関を就活先の第一志望に考えるようになった。そして、大学での勉強も生かせるところとして政府系金融機関に照準を合わせた。

きめ細かい仕事が得意

エントリーシート(ES)で10行ぐらいに応募し、面接に進んだのは6~7行。そこでやはり聞かれたのは、だれもが経験する「ほかにどこを受けていて、うちはその中の1番なのかどうか」だった。その答えに迷うことはなかった。どの政府系金融機関もそれぞれの特徴ある業務があり、もし入れるのなら、こんなことがやりたいという色分けが出来ていたから。例えば、各地域の経済を支える金融機関に対しては「地域の人たちの顔をしっかり見て、地域の特性にあった経済発展の仕方を地元の金融機関にアドバイスしていきたい」といった具合。どの金融機関にいっても、一番好きな仕事がある。本心でそう言えた。

そのうち2行に絞られ、最後に決め手となったのは、就活をしていたそのころ、その会社が進めていた業務の方針だった。経済を動かしているというダイナミズムにあこがれたのも大きい。すごく忙しいとは聞いていたが、それでも楽しいだろうと思った。

金融機関の仕事がきついということは、両親からもほのめかされていた。うまくいって当たり前、ミスをしたら減点される仕事だぞ、しかも細かいからお前には合っていないかもと、心配していたが、それに対する反発も少しあった。

会計の勉強が好きだし、大学のサークル活動でも、細部の詰めが必要なスケジュール管理など、みんなが敬遠したがる裏方の仕事も楽しかった。銀行の業務はそんな生易しいこととは思わないが、自分には向いていると思う。

そう信じて今年4月、胸を膨らませながら、あこがれの会社の門をくぐった。学生生活を通して念願だった銀行マン。ところが5年前までは、まったく違った仕事につくことを考えていたのだ。その話は次回に。

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