就職活動

シューカツ見聞録

山崎さくらさん

静岡県出身。海外旅行にグルメ、スポーツなど好奇心は人一倍旺盛で、小さな体で休む間もなくあちこちへ駆け回る「活動派」。一見、おとなしそうな感じがするため、「ギャップがある」とよく言われるという。

第7章 伝えるという仕事(上)

「インターンシップが針路を決めた」

着ているシャツのボタンを、ひたすら掛けては外し、掛けては外した。その数1万回。5時間くらいかかった記憶がある。

大型のドラッグストアで毛穴ケアの化粧品やお手入れ用品を、あるだけ買いそろえた。手提げ袋いっぱいになるほどの商品の金額は数万円に上った。

さらには、繁華街の雑踏の中から二重あごの人を見つけ出してはインタビュー。次々と拒否されても声をかけ続け、粘り強く何十人分かの声を集めた。

これ、学生時代のアルバイト。最新の科学とユニークな実験で健康や食などの情報を正確に、なおかつ面白おかしく伝えるNHKの人気テレビ番組「ためしてガッテン」のアシスタントだ。常時20~30人の学生が、この一つの番組のために雇われていた。

「ミルク買って来て」と言われて使い走りをしたり、出演する芸能人におしぼりを持っていったり、録音した内容を文字に起こしたりと、ありとあらゆる雑用をこなすのが仕事だった。そんななかで、ボタンが一番取れない縫い方や、毛穴に注目して最新の美顔事情、二重あごと健康の意外な関係などについて、とことん調査する番組づくりの神髄を見た。

視聴者のガッテン(合点)がいくにはどうすれば? 誤解を招くことがないようにするには? など細心の注意を払いながら、お金もかけ、何回も失敗を繰り返しながら良い番組というものが作られていくんだなと実感した。

あいさつの大切さや、相手に断られてもめげない精神なども同時に培ったが、何よりも、自分が10代の時から将来の仕事として考えてきた「人に何かを伝える」ことの楽しさ、面白さを知ることができた。時給が安くても大学2年から3年間続けられたのは、それが理由だった。

アナウンサー志望だった高校時代

高校の放送部に入った時点で、自分の心の中には早くも「マスコミ」が就活先としてクローズアップされていた。校内外で拾ってきたニュースをもとに自分で原稿を書き上げ、昼休みなどに読み上げるのがふだんの主な活動だが、2年の時に出たNHKのアナウンスコンテストでは、全国大会に出る一歩手前という成績を残した。

リポーターやアナウンサーの仕事っていいな。テレビ局など大手マスコミでなくても結婚式の司会者など、しゃべる仕事にも興味が生まれた。

お茶の水女子大に進んだのも、マスコミに強い国立大というイメージがあったから。NHK「ニュースウオッチ9」の井上あさひアナウンサーは同じ文教育学部の出身だ。ただ、アナウンサーになる夢は自ら幕を下ろしてしまう。説明会に来た女子たちがあまりにもキラキラしていて、似つかわしくないかもしれないと思った。

取りあえず「口を使う」仕事は脇に置きながら、就活を意識し出した大学3年の夏。自分の針路がくっきり浮かび上がったのが、朝日新聞社のインターンシップに参加した時だった。それまで新聞といえば記者がいる編集部門しか思い浮かばなかったのが、財務や販売、広告などのビジネス部門の仕事を1週間かけて回り、職種がとても多岐にわたっていることを初めて知った。もともとマスコミ志望という根っこには、アルバイトに限らず好奇心が強く興味の幅が広いことがある。一つの仕事にこだわるのではなく、いろんなことに手を出してみたい身にはこれが向いているのではないかと直感した。

「企画」に感じた魅力

特に美術などの展覧会の主催事業は、世界的な芸術家の作品や文化的遺産を多くの人に「伝える」という意味でぴたりとはまった感がある。当時都内で開かれていた「古代エジプト展」を実際に見ながら、展示室の照明が暗めなのは強い光によって作品が傷むのを避けることと、光のあて方の効果で作品をより美しく魅力的に見せる狙いがあることなどを教わり、企画を立てた側、つまり伝える側からの工夫に目からうろこが落ちる思いがした。

インターンシップの中で過去に主催した美術展について盛り上げる方策を考えるグループワークの際には、「草間彌生展」について一つの提案をしてみた。前衛芸術家の草間彌生さんの絵画や彫刻などは特有の水玉模様が有名だ。そこで、水玉の服を着てきた人は入場料1500円を1300円にするのはどうかと言ったところ、「とても面白い」と評価してもらえた。「水玉だから、いっそのこと丸めて1000円にしてもいいね」。

自由な発想が活かされる環境が心地よかった。そういえば、学生生活の間、多くの時間を割いた「ためしてガッテン」の現場でも、視聴者に楽しんでもらいつつ必要な情報を伝えるため、さまざまな実験やイベントを仕掛けるスタッフの企画力のすごさを身近に感じた。マスコミの職種としては記者のことも頭の中に残っていたが、アイデアを出すことにかけてちょっぴり自信のある自分としては、デジタルコンテンツや展覧会など企画業務が、その年の年末から本格化した就活でのターゲットになった。

そんな思いで本番を迎えた就活での体験などについては、次回に。

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