都内の大学4年、Aさんは就活が本格化しはじめた昨年1月、同学年の友だちからエクセルで作製された問題集のペーパーを受け取った。「これ、使えるぜ」。そう言われてよく見ると、企業が面接前に就活生に課す「Web(ウェブ)テスト」だった。自宅のパソコンで一定制限時間内で解く一般常識や計算、統計などの問題がざっと4種類、計200問。画面からはコピペできないため、プリントされた問題を事前に入手しておけば、圧倒的に有利だ。
それから間もなく、別の友だちからも「いいものがある」と言って、あるペーパーを渡された。なっ、なんと、中身はすべて同じWebテストだった。だれが作製したのか、友だちに聞いても分からない。だが、何の関係もない2人の友だちが入手しているということは、それがねずみ講のように幾何学級数的に拡散し、出回っているのだろうと想像がついた。
さて、Webテストを受けてみると、受験した約10社の問題はすべて、このカンペ(カンニングペーパー)の中から出た。すらすらと解きながら、もし、カンペがなかったら、30点ぐらいしか取れなかったのではないかと思った。当然ながら、この段階はすべてクリア。カンペさまさまである。
このうち、ある企業ではその後、エントリーシートの提出を経て、企業が設けた会場でのペーパーテストもあった。そうして臨んだ1対1面接。担当者が突っ込んできた。「Webテストとペーパーテストの点が違い過ぎるんだけど、ちゃんと自分でやったの?」
あっ、ばれたかも。シラを切るか、正直に白状するか。とっさに「すみません。問題と答が出回っていたので。でも、これも御社に入りたい一心で、そのためならと思って」。どやされるかと思ったら、部屋中に大笑いが響いた。納得してもらえたようだ。そのあとの質問では一切、聞かれることはなかった。熱意が伝わったのか、2次、3次と面接を次々とパスし、内定まで取り付けた。
せっかく取った内定だったが、Aさん、これを蹴った。同じ系統の業種の別企業のほうが自分にふさわしいと感じて、気が変わったのだ。入社を決めた会社はWebテストがなかった。インチキをして入社するよりも、本当に実力を評価して内定をもらえた。胸を張ってその会社の門をくぐれると思うと、今は気持ちがいい。
ちょっと気になるのは、内定を辞退した会社の方だ。あの面接官にどこかでばったり会ったら、どんな顔をされるだろうか。張り倒されるかもしれないな。
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