苦手を避け、得意を磨くという闘い方もあるよ
寄宿学校で暮らすくまの子どもたちを描いた絵本が、シリーズ累計200万部を超えるロングセラーになっている。その世界観は大人にも好評で、オリジナルグッズは約1万種類に上り、ミュージカルやアニメも作られた。
この絵本。文章を担ったのは、キャラクターのトータルプロデュースも行う相原さんだ。
以前は広告会社に勤務。バブル期にはプランナーとして年に数十億円を動かしていたという。「当時は自分が世の中を動かしているなんて錯覚していましたね。肩で風を切って歩いていた(笑)。自分の得意な仕事しかせず、苦手なことをするのは意味がないと思っていました」
イキのいい相原さんをかわいがる上司もいたが、周囲との摩擦も多かった。やがて100億の受注を逃した時に開発チームは空中分解。失意の中、会社が合併され仕事も宙に浮いた。
そんな時、相原さんに子どもが生まれる。「子どもの世界って面白かった。読み聞かせのため一度に100冊の絵本を取り寄せたら、僕も魅了されて、更に収集していくうちに自分でも書いてみたくなりました」
その後、誘われた玩具メーカーに38歳で転職。得意分野になっていた「絵本」を使ってキャラクターを作ることになり、絵本作家への道が開けていった。
「自分たちが生み出した世界が13年経った今も多くの人に愛されているのは夢のようです。僕自身、絵本とそのキャラたちに強い愛情を抱いていて、100年先に残るものにするにはどうすればいいか、24時間必死に考えています」
苦手なことは徹底的に避け、得意分野で勝負する。その仕事の仕方に変わりはない。
「僕は苦手なことではとことんダメなやつになるんです。でも、単なるわがままにならぬよう、得意なことは人に絶対負けないように磨いてきました。自分を大切にしてきたとも言えますが、結果、僕はくまの絵本という一本の軸を手に入れ、やりたいことに挑戦する場を持てました」
自分が熱中できることに注力する、そんな闘い方もある。
(5月25日掲載、文:田中亜紀子・写真:南條良明)
出典:2015年5月25日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面