結果より過程を見つめ、大事な潮目をつかみとる
日本のお正月の風物詩、箱根駅伝。91回目の今年は青山学院大学の初優勝に沸いた。その立役者が原さんだ。
元ビジネスマンで、10年の営業経験で培った知恵とノウハウを生かして箱根を制した監督として話題を呼んだ。
高校、大学と陸上選手だった原さんは、その実力を買われて地元電力会社の陸上部に1期生として入部した。しかし故障により5年で引退。新たなスタートを切ることになる。
「営業部に配属され、10歳年下の新入社員と一緒に仕事を覚えるところから始まりました。大きな挫折でしたが、人として負けたくないと、その悔しさをバネに仕事に向き合いました」
はい上がるべく独自の営業スタイルを生み出し、やがて社内トップの売り上げを記録。その後、異動になった新規事業所でも好業績を上げた。だが原さんは、その順風満帆のキャリアを捨てて青学陸上部を指導する道へと進むのである。
「僕が選手だった頃、指導って一方的に押しつけられることが多く、指導者はまた、選手が引退した後、社会で生きていけるか どうかまではほとんど考えてくれていなかった。その状況が10年経っても改善されていないと知り、変革を起こしたいと考えたんです。それと、僕自身が新し いフィールドで何か別のことをやりたくなっていた時期だったんだと思う。決断に全く迷いがなかったので」
選手から練習の報告を受ける際、タイムは気にせず、どんな表情で、どういう動きで走ったかをこまごまと聞く。
「結果ではなくプロセスを大事にしています。そして全身全霊で選手を観察する。その選手が仕上がりのピークに達しているかどうか、今後どんな努力が必要かといった潮目がそこから見えてくるからです」
彼らに言葉を持たせることも忘れない。「おちゃらけでいいから何でも話せと。しゃべることで人は考えるようになるし、アイデアも出てくるので」
駅伝の選手、で終わらせない。熱く生きる人間を育てることが真の目標だ。
(6月1日掲載、文:井上理江・写真:南條良明)
出典:2015年6月1日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面