困難なことも、必要な回り道。生かし方はある
薬を楽に飲み込めるようにした、服薬補助ゼリーを開発して約20年になる。粉薬も錠剤も包み込む、言わばゼリー状のオブラート。薬がのどに付着しにくく、高齢者や子どもなどに好評だ。
開発のきっかけは、臨床薬剤師として勤務していた病院で、嚥下(えんげ)力の弱った高齢者が薬をおかゆに混ぜて食べているのを見たことである。
「当時はそれがいい方法だとされていましたが、疑問を持ちました。それに子どもたちにも『苦いけれど飲んでね』『粒が大きいけれど飲んでね』と言うのもつらく、製薬会社はどうして飲みやすく作らないのかと思っていました」
製剤に携わりたくなり、一念発起して現会社へ。「でも女性の研究職員は私だけ。これは男性の10倍頑張らなければと奮起しました」
服薬補助ゼリーを開発する過程では、前例がないと会社の役員会で反対もされた。しかし、経営改革を模索していた現社長を介護施設に案内し、社長が現実を見て「明日は我が身だな」と衝撃を受けたことで、製品化にこぎ着けた。
「介護施設で試してもらうと、栄養士さんから『お米の減りがすごい』とうれしい報告を受けました。ご飯と薬が別々だと、おいしくて食が進むんです」
その後、福居さんは思いもよらぬ全く別部署へ異動となったこともある。「周囲の人には心配され、励まされました。ただ、定時で帰れるようになったの で、それならと平日は英会話を習い、土日は名古屋の大学院に通って製剤の研究に打ち込みました」。たいした肝の据わりよう。博士号まで取得した。
「何事も無駄じゃない、必要な回り道をしているだけ。今では会社に女性社員も増え、新しいことにどんどんチャレンジしています」
服薬補助ゼリーは子ども用や漢方薬用など種類も広がり、普及も進んでいる。でも福居さんの挑戦は終わらない。「医師、看護師、薬剤師が、より連携して患者さんをケアする仕組みを作っていきたいですね」
(3月30日掲載、文:原納暢子・写真:南條良明)
出典:2015年3月30日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面