オリジナルの追求が開拓の喜びへと導く
昨年12月に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」。そのプロジェクトマネジャーの國中さんは、2010年に帰還した初代はやぶさではイオンエンジンの開発担当として参加していた。
はやぶさの航海終盤、全てのエンジンが停止した時、國中さんがひっそりと仕込んでおいた別のエンジン回路が状況を打破する。「万が一に備え打てる手は全て打ちたかった。工夫できたのは、部品まで全て独自に作り内容を知り尽くしていたからです」
國中さんの学生時代、宇宙開発に強い米露は有人ロケットに力を注いでいた。そこで國中さんは、無人の電気ロケットなら日本も互角に戦えると専攻を決 める。それまで無かった、マイクロ波を使ったイオンエンジンの開発。その研究を長年重ね、はやぶさプロジェクトの立ち上げ時に「これだ!」と名乗りを上げ た。
国内外から日本には無理だと思われる中、國中さんは海外製品に頼らない純日本製の技術開発の必要性を説き、イオンエンジンが採用となる。
「ところが、耐久実験で必要な部品が働かない。刻々と時間が過ぎて相当追い込まれました。当時40代。同世代が出世する時期に、自分は大きなリスクを背負いクビの可能性もある。若いうちに転職した方がいいかもという考えもよぎりました」
しかし諦めなかった。そしてエンジンは完成。打ち上げ後のトラブル対処に追われる厳しい日々も、「新しい挑戦に夢中で楽しかった」と笑う。
はやぶさ2では全体の指揮を執る立場となった。「自分の役割を把握して主体的に動いてくれるスタッフが頼もしい。それに、初代はやぶさの成功のお陰で今回は世界中が日本の技術をリスペクトしてくれ、協力的でありがたいです」
若い頃はただ自分のエンジンを作りたい一心だった。でも作り上げたら想像を超える展開が拓(ひら)けた。「未知のブルーオーシャンに乗り出すってワクワクしますよね」。どんな世界にも開拓という楽しみが待つ。
(3月23日掲載、文:田中亜紀子・写真:南條良明)
出典:2015年3月23日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面