力を尽くしていけば新たな展開を起こせる
「これまで日本でいいお手本をたくさん見つけました。お金をもうける方法だけでなく、思いやりや感謝など人として大切なことを多く教わり、育ててもらいました」
東京の堀切菖蒲園駅前で焼き肉店を経営する羅名さん。27年前、23歳で来日した。祖国バングラデシュは内戦で疲弊しており、学校の先生が見せてく れた雑誌に日本の写真を見つけ、希望を見いだしたのだ。最新設備の工場、猫の手も借りたいほどの好景気。羅名さんにとって奮闘努力の始まりとなった。
「昼間はゴム工場で働き、夜は居酒屋で皿洗い。土日と工場が休みの日は洋服店で接客です」。働きながら日本語を学び、生活習慣を身につけ、実家への仕送りも怠らなかった。
8年後、結婚を考えて焼き肉店へ転職。「好物の焼き肉を、人にもおなかいっぱい食べてもらえる店を持ちたかった。人の倍働いて覚えようと考え、山積みの焼き網を洗ったり、人の嫌がる仕事をこなしました」
こうして、見込まれて店舗を任されるまでになり、経営術も身につけた。3年後、念願の独立。でも資金が足りない。そこで羅名さんは、何と事業計画書 を手に駅前で道行く人に融資の保証人をお願いするのである。そしてそれに応える人も現れた。自分も海外生活をした時に助けられ、とても感謝しているから と。
開店3カ月後には日本中を揺るがせるBSE騒動も勃発したが、そういった困難に屈せず、乗り越えてきた羅名さん。今では日本バングラデシュ協会を設立し、母国に給食付きの学校を建設する運動を展開するなど、新たな力を発揮している。
「バングラデシュの初等教育は5年間ですが、貧困で約半数が卒業できていません。かつて町長だった父は、文化や宗教など人の考え方の違いを理解しながら生きる人でした。話し合って計画し、時間をかけて実行する。諦めずに力を尽くしていけば、きっといい方向に向かいます」
教育は原点。日本で教わったことを祖国に伝え、バングラデシュを幸せにしたい。羅名さんはまた、たくさんの汗をかく。
(5月11日掲載、文:原納暢子・写真:南條良明)
出典:2015年5月11日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面