クリエーティブって、思いやり、優しさだと思う
「たった一杯で幸せになるコーヒー屋」を理念に掲げ、東京・恵比寿に本店を構えるコーヒー専門店。店主の大塚さんは原料豆を厳選し、豆の個性に合わせた焙煎(ばいせん)、抽出法にこだわり抜く。
8坪の小さな店だが、ツウをもうならせる味わいで次第に話題を呼び、昨年の開店3年目には缶コーヒーの監修を行ってテレビCMにも出演、一躍全国的に知られる存在となった。
15歳から10年間、俳優をしていた。行き詰まりを感じ始めた矢先、友人に誘われてコーヒー専門店で働き始めた。
「全然もうからない商売。でも、一杯のコーヒーの先に何かがあるような気がした。俳優業は結実できなかったけれど、ここでなら自分のクリエーティビティーと言うか、創造性を発揮し、人を感動させる何かを生み出すことができるかもしれない。そう思えたんです」
その店で働きながら知識を学び、技術を磨き、29歳で独立。最初の1年半は来店客も少なく赤字が続いた。それでも理想とする店を実現す るため、スタッフとの価値観の共有に力を注いだ。「お客さんを喜ばせたいという思いを全員が持つ店にしたくて、毎日閉店後に夕飯を共にしながら語り合いま した」
こうした取り組みで一人ひとりの意識は高まり、それが真摯(しんし)な接客につながって売り上げも次第に上がっていった。
「結局、クリエーティブって自分の才能や能力ではなく、優しさを発揮することだと思い至りました。人のために何ができるのかを真剣に考 え、実践する。それさえできていれば百%より良い方向へ物事は進んでいくし、仕事も発展していくんだなと、この店を始めたお陰で気づくことができました」
今年2号店をオープンした。「俳優時代、大きなチャンスを逃したことが何度かあり、その空しさはもう味わいたくない。だから軌道に乗り 始めた今こそ死ぬ気で頑張り、誰にとっても居心地のいい、人情味あふれるお店を築いていきたいです」。コーヒーの香り、愛のある接客が大塚さんの情熱と重 なった。
(4月28日掲載、文:井上理江・写真:南條良明)
出典:2015年4月28日 朝日新聞東京本社セット版 求人案内面