過去の成功に固執せず新機軸に挑む
サッカー男子日本代表チームのコンディショニングコーチ。その仕事は、選手が実力を発揮できるよう、心身の状態を整える方法を指導するものだ。筋力や心肺機能の向上の図り方から、食事や休息の取り方など生活面にも及ぶ。
代表チームが招集されるとその活動に同行し、それ以外では試合を視察したりクラブ関係者に話を聞いたりして代表候補選手の情報収集に努めている。「ケガの具合など、時には選手に不利なことを監督に進言する義務もあるので、選手とは意識して距離をとるようにしています」
いわゆるサッカー少年だった早川さん。関連した仕事に就きたい一心でトレーナーを目指した。当時はJリーグもなく、トレーナーという職業も手探り。専門学校で学ぶ傍ら、頼み込んでクラブチームなどで修業させてもらい、仕事の場も求めた。
最初にトレーナーを務めたのは女子の日本代表チームで、そこで仕事の基本や、選手に平等に接する大切さを学んだ。そしてクラブチーム時代には仕事への向き合い方を探ることになる。
「当時のトレーナーは選手の体に異変が起きてからが仕事で、いわばケガ待ちの状態。その待つという態勢が僕には合わず、選手がケガをしないよう、その前からできることがあるのではないかと模索するようになりました」
こうして今、選手の体調管理に日常的に関わるようになり、「代表にケガ人なし」の意気込みで取り組んでいる。日韓共催のW杯から4回連続で代表チームに同行。監督が代わる度に調整法の指示もがらりと変わるが、でもそれにも慣れたと笑う。
「どの監督にも独自の哲学がありますが、勝つために選手をベストの状態にしたいという根の部分は同じ。だから僕は自分の過去の成功体験には固執せず、新しい指導法を考えることにやりがいを感じます」。それは今までの方法を捨てるということではなく、経験を踏まえて新機軸を打ち出すということ。
「守りに入らず常に挑戦者でいられるのは、やはり、選手と共にピッチで戦えるという幸せがあるからです」
(6月29日掲載、文:田中亜紀子・写真:南條良明)