毎回、本番。目の前の仕事をピカピカに仕上げる
宮城県気仙沼市の女性たちが一着ずつ手編みするオーダーメイドのニット衣類が注目を集めている。高額で販売も不定期だが、全国から注文が相次いでいるという。
東日本大震災後、気仙沼で会社を立ち上げて新しい産業を育てようとしていた糸井重里さんから、同事業の責任者を託されたのが御手洗さんだ。「一時的な復興支援の波が去った後も、地域に根づくビジネスをつくろうと思いました。100年先まで続く、未来の老舗にしたいです」
そのためには「被災地のものだから」ではなく、「買う人が心から欲しいと思うもの」をつくることが重要と、徹底的に商品のクオリティーを追求した。「働く人も誇りを持てる、世界ブランドに育てたいですね」
なにになりたいかより、どう生きたいかが大切。母親にそう言われて育った。そのためか特定の職業を目標にしたことはない。小学生の頃、国際交流キャンプに参加し、世界に目が向いた。「特に経済格差については考えさせられ、困っている人と一緒に課題を解決できる人でありたいと思うようになりました」
大学卒業後は、まずビジネスの世界を理解しようと外資系コンサルティング会社に入社。その後ブータン政府の首相フェローに就任し、国の自立のための産業育成に従事した。
「私はブータンも気仙沼も、よそ者として土地に移住し仕事を始めました。でも、一人ではなにもできない。周りの人から信頼され、協力してもらって初めて仕事になります。自分の損得を計算していると信頼は得られません。『本気でこの地域のことを考えているんだ』と思われて初めて人がついてきてくれます」。だから、気仙沼の人々、会社にとってなにがよいのかということに集中し、行動している。
「自分の仕事の仕方は、大工に似ている気がします。毎回の現場が本番。人によろこんでもらえるよう、腕によりをかけて仕事をします。自分のキャリアなどはあまり考えたことはありません。目の前の仕事をピカピカに仕上げて初めて、先の道が拓(ひら)けていくと思うんです」
(6月22日掲載、文:井上理江・写真:南條良明)