仕事を続けてきたひけつ、それは自分を保育する力
凜(りん)とした姿、筋の通った発言が小気味良い。ニュースキャスターの安藤さんは、大学在学時の20歳の時にスカウトされてから、報道に足を踏み入れて36年、第一線で活躍し続けている。
「最初の頃は毎日叱られてばかりでした。職業への自覚などほとんどなく、アルバイトなんだから仕方ないじゃんと思いつつ、負けず嫌いな私は、ちゃんと仕事ができるようになったら辞めてやると考えていました」
意識が変わったのは1981年のポーランド取材。当時同国は共産主義政権下にあり、食料は配給制であった。物資不足が深刻化する中、街頭で欲しいものを尋ねると多くの人が「平和」と答えた。
「こういう人たちが私と同じ時間軸に生きている。その現実に衝撃を受けたのと同時に、それを人に伝えるという役割をもらったことに感謝しました。それが今の仕事に惹(ひ)かれる第一歩となった出来事です」
今も毎日、テレビカメラの前に立つ。生放送は、やり直しがきかないからこそ失敗もあれば、嫌なこともある。だからその度にやる気が失せ、腐るし、落ち込んでしまう。
「でも私は、そういう自分をなだめて励まし、翌日の本番へと何とか自らを引っ張り出すことができる。自分を保育するそんな力が備わっているから、こんなに長く続けていられるのかなって思います」
仕事は自分との勝負の場だ。常に物事の核心を伝えられるよう情報のインプットを欠かさない。さらに、今の能力では太刀打ちできないと思うことにも積極的に挑戦し続ける。
「負荷をかけて追い込むのは正直怖い。でも大丈夫だよって自分を保育するようにしながらやってみる。その方が乗り越えた時に得られる達成感は断然大きいし、より人としての成長もありますから」
仕事一筋の安藤さんだが、実はエンターテインメントも大好きだ。今年の注目作品で、初来日公演となるブロードウェイミュージカルのオフィシャルアンバサダーも務めている。
「主人公のピピン王子が満ち足りた人生を求めて旅に出る物語なのですが、足るを知るというか、心の内にある思いこそが、その人の人生を充足させるのだという、そんな大切なことを伝えてくれます。音楽や歌、ダンス、そしてアクロバットが混然一体となって繰り広げられる、壮大なスケールの作品です」
(8月31日掲載、文:井上理江・写真:南條良明)