人の役に立つ。それが仕事をするということ
ジェロントロジー。それは日本語で老年学や加齢学と訳される学問である。
高齢社会にまつわる課題について、心理学をベースに医学、経済学など様々な学問と連携させ、学際的に解決していこうとするものだ。そして、アンチエイジングやエクササイズなど、私たちの身近にある問題とも関わっている。
山野さんは、美容や福祉などの教育を行う学校法人で総長を務めており、その中で、このジェロントロジーのカリキュラムを全国に先駆けて展開している。アメリカの大学と提携し、最先端の講義がオンラインシステムで学べる。
「人生80年の時代、病気や年金などを気にせず、臨終の際まで魂を燃やして生き切るには何をすればいいのか。ジェロントロジーはそのことを深く考えさせ、全ての人をより豊かな人生に導くために今こそ必要な学問だと考えています」
18歳の時、英語は話せなかったが、憧れの気持ちに押されてアメリカへ単身留学した。現地では様々な仕事に就き、多くの挫折も経験。最終的には生命保険会社でトップセールスマンにまで上り詰めたというつわものである。
滞米27年。「とにかく、何かを成し遂げるまで日本へ帰るのは嫌だという思いで努力を重ねてきました。そのかいあって結果も出せたし、生きる知恵も身に着いた。実際、何をするにも一番近道はどこかということを探り当てるのがうまいと思います。その感性は今も大いに役立っていますね」
仕事で大事なのは、それに臨む際の態度と意気込み。これも若い頃に培った自身の教訓だ。「義務感で『しなければ』と思ってやることは仕事とは呼べません。人に役立とうという思いで行動を起こしてこそ、仕事と言えるのです」
15年以上前から、福祉の知識と技術を持った美容師の育成にも力を注いでいる。「マニキュアやお化粧をしたら、おばあさんのおむつが取れたという研究成果もあるほどです。美容パワーで気持ちが高揚することもまた、高齢者を元気にする。そういう意味で、ジェロントロジーや福祉の知識を持つ美容師の果たす役割は、今後ますます大きくなっていくでしょう」
これからも美容業界の発展のため、できる限りの努力をするつもりだ。それが生きがいだという。間もなく80歳。だが、人生を生き切るべく迷いなく進む。その覚悟が山野さんの背筋を伸ばす。
(井上理江=文 南條良明=写真)