まず一歩踏み出すと、展開が人へつながっていく
26歳で、日本には珍しかった「ハウスウェディング」のブライダル会社を起こした。わずか3年で当時のナスダック・ジャパン市場に上場し、世間を驚かせた青年は、その15年後の現在、再び新風を巻き起こそうとしている。それは「ソーシャライジング」をコンセプトにしたホテルの開業だ。
「日々のライフスタイルの中で、自分らしく無理せず等身大に、社会的な目的を持って活動することをソーシャライジングと名づけました。このホテルは『誰かのために』『何かのために』なりたいという、社会貢献への思いを生かせる場所となります」
ホテルでは、小学校で廃棄された蛍光灯から作ったグラスを使い、放置自転車をクリエーターがリメイクしてレンタル用に再活用するなど、スタイリッシュな再生品をそろえる。障がい者や高齢者の働きの場という問題にも応え、もちろん利潤も考えたビジネスモデルを目指す。
野尻さんはとにかくエネルギッシュな人だ。大学時代はラグビーでチームが日本一に。20歳で起業を決意し、会社員時代は3年で約100人のベンチャー経営者に会った。常に目標を立てて有言実行。上場前の資金集めは資産家が集う店に通いつめて口説き続けた。「そういう熱量がないと誰も動かないし、新しいことを起こせません」。事業拡大に突き進んでいた野尻さん。しかしリーマン・ショックがクールダウンのきっかけを生んだ。
「やみくもに拡大していた事業を整理し、自分たちが何をすべきかを考え直しました。そして3年前、米国ポートランドで地域活性化の立役者となっているホテルを見て、本業で社会貢献ができる今回の事業の発想を得ました」。来春の開業を発表すると、行政や民間から大きな反響があり、早くも各地で産業の種に化け始めている。
「僕は何かしたい時、とにかくまず一歩踏み出す。すると次を考えざるを得なくなる。今回もまず開業準備室を設け、課題をオープンに貼り出すことで、一般の人、クリエーター、企業など様々な人の知恵がつながって驚くべき展開が生まれています。障がい者が就労する渋谷区の福祉作業所に3Dプリンターを導入し、めちゃくちゃ格好いい商品ができたり。当初の構想をはるかに超えるような事業展開が見えてきた。皆が無理せず社会貢献できるムーブメントを起こすことに、今夢中ですね」
(田中亜紀子=文 南條良明=写真)