「劣勢をひっくり返すのは着眼」
佐藤 オオキが語る仕事―3
スピードは重要な仕事力
全力で前倒しの勧め
僕の仕事は今、クリップなど事務用品のプロダクトデザインから、企業ブランディング、駅前開発のプロジェクトまでその範囲がかなり広がっています。新しい視点を提供することが「デザイン」なのでその広がりに違和感はありませんが、それぞれの取り組みで意識しているのは、課題に対してのこちらの提案スピードをとにかく速くすることです。
デザインなのにスピード重視かと驚かれることも多いのですが、早く検討のまな板に載せれば、失敗かどうかが初期段階で分かる。つまり、間違っていたら方向性の再検討やリカバリーの時間が取れるということです。こちらで提案までの時間をギリギリまで使い、もう時間が差し迫っているからやむを得ないというような状態に陥るのは避けたい。本質を見誤らずに進めるにはスピーディーなトライアル&エラーの繰り返しが必要です。そして早く解決できれば、次の仕事に取り掛かれる。そのようにして経験値を増やすことで仕事の質は上がっていきます。
どのような仕事、業種でも同じだと思うのですが、スピードを上げるには全力で集中するしかありません。短時間で、目の前の仕事や課題と真剣に向き合うこと。そんな仕事大好きの僕のやり方をお伝えしてみます。
予定調和を崩してみる
僕はまず、既存の延長線上にある考え方や方法論には疑問を挟みます。例えばクライアント先に伺ったら、知ったかぶりは絶対にしないどころか、「バカだと思われるだろうなあ」と思いながらもたくさんの質問をしてみます。その業界について素人であるデザイナーの僕に説明してもらうことで、本質が見えてくるからです。また、クライアント社内にはそれぞれに力関係があって、本当は優れているアイデアが日の目を見ないということもありますから、そこを揺さぶって課題を噴出させる役割も担います。つまり、早い時期から問題に切り込んでしまうわけですね。
大勢の担当者や関係者が出てくる会議も、基本的には必要がないと思うし、プロセスを重視するようなブレーンストーミングもいらないと思っています。なぜなら、着地点が見えないまま「取りあえずのアイデア」に時間を割くことなどは、本質に届くためのスピードを遅くしてしまうから。
僕はあきれられることもあるのですが、着るものは黒のジャケットとパンツ、そして白のシャツ。同じブランドで20着ずつそろえていて、世界中どこでも、どんなシチュエーションでも同じです。コーヒーや食事も毎日ほぼ同じもので十分。日々の選択に神経を使うより、向き合っている仕事に頭と時間を使いたいと考えています。スピードの妨げになるような要素は極力なくてもいいと思うからです。
仕事の力には様々なものがあると思うのですが、僕は間違いなく、早くこちらの提案を見て頂くこと、そして実行に移してもらえるような提案をすることだと思います。そのスピードを加速させると、仕事の質が高まってくる。面白いことに「とにかく速く」と自分に課すと頭が動き出し、そして周囲にも伝わって一体感も生まれるのです。
若い人がスピードのある仕事をしたら、これは強いと思います。(談)