「劣勢をひっくり返すのは着眼」
佐藤 オオキが語る仕事―4
日本人の強みは解像度の高さ
盆栽作りに見るさじ加減
今、盆栽についてのプロジェクトを手掛けていますが、とても気づくことが多く面白いです。盆栽職人さんによると、木は自然に育っていくものだけれど、それが奇麗に育っていくように促すのが自分たちの仕事だそうです。姿が自然に美しく見えるように、また養分が望まない部分へ行かないように不要な枝を落とし、日に当て、水をあげて管理する。決して本来の成長を止めたりはしません。
生命の進化を促しながら、絶妙なさじ加減でコントロールしていく、そのタッチの仕方は日本人の文化に息づいていると思います。デザインもまさにそうですし、もし個人や組織を全部コントロールしていたら、進化する機会がなくなり、それを放置すると勝手に伸び放題の木になるだけです。つまり日本人は、白か黒かだけではなく、その間にある無数のグレーを探し当てる解像度の高い目を持っているのではないか。そういう繊細さが、誇れる日本のセンスなのだと思います。
とは言え、僕もかつてミラノで、大きな規模の仕事を受けて肩に力が入ってしまい、今思うと本当に恥ずかしいのですが、スタッフにも当たるほどピリピリとした、つらいプロジェクトの経験がありました。クライアントには好評価をもらえる結果を出せたのですが、あの時の僕は自然体ではなく、楽しい気持ちも持てず、これは自分らしい仕事のやり方ではなかったなと後で痛感しました。
例えば現在の僕は、仕事をする上で自分の個性を意識することはありませんが、海外では制作したものを「日本人らしい」と評価されることがよくあります。グローバル社会では時に個性を打ち出すべきだという風潮もあるけれど、頭で無理に考える必要はなく、もうDNAに入っているんだなと自然体で仕事をすればいいのではないでしょうか。何しろ日本人は、降る雨一つにも何十という美しい名前をつける才能があるのですから。
カスタマイズの時代へ
人と違うことをやろうとか、思うように自由に仕事をしようとかといくら鼓舞されても、そこまでの変化は望んでいない。それがこれからの時代だと思います。自分らしさは奪われたくないけれど、どこかにゆるやかに属していたい。
それは、商品開発でも同じです。みんなと全く同じものは嫌だけれど、ほんの少し違う、ひとひねり、そのはざまの心理を細やかに崩していくと、新しい商品やサービスの居場所が見つかります。例えば家具を買う時、全パーツを自分で決めるとなるとどうしていいか分からない。でも、取っ手を選べる、オプションをつけられる程度の自分仕様にはカスタマイズしたいのです。
あなたの現在の仕事にも、この考え方を取り入れてみてください。商品そのもの、その周り、使っている人、置かれている場所などをできるだけ細かいパーツにして、その中でカスタマイズできるポイントに着眼していくのです。それがデザイン視点です。この方法は、色々な角度から一つのものを分析することにもつながります。頭から追い出して欲しいのは、「こだわり」「マニュアル」「古いルール」です。仕事では、今日を生きている自分の目や感じ方を武器にしてください。(談)