「思うままに経験を積もう」
鈴木 優人が語る仕事―4
仕事は広く深く手を伸ばす
総合力へ向かいたい
バッハが活躍した18世紀バロック時代、優れた音楽家はみなトータルミュージシャンでした。バッハは作曲家であり、歌詞も書き、同時にオルガンやピアノなどの鍵盤楽器、バイオリンなどの演奏家としても活躍しました。偉大な功績を残した当時の音楽家は、ヘンデルも、フランスのオペラ作曲家などもほとんどそうですし、音楽が成し得ることの多くをその腕に抱いていたのです。
しかもみんな理論書を書き、自分がやってきたことの原理を残していく。バッハは書かなかったとされていますけれど、残された作品や記録から、目指していたことは伝わってきます。非常に科学的なマインドだと思うのですが、音楽だからできるということについて、どう向き合うのか見解を持っていた。そういう仕事のスタイルが、同じように僕の根底にもあります。
例えば、ヨハン・マッテゾンという人の著書『完全なる楽長』が名高い。楽長とは楽士の長で、作曲ができ、音楽への幅広い知識があり、各楽器に精通し、しかも雇い主である王様の話にも十分対応できなければならない。そういう広い力量を持って楽長を務める様子が分かります。レオナルド・ダビンチまでさかのぼると、彼の仕事は音楽はもちろん絵画や建築、数学や科学、地質学ほか、メディチ家とのつき合い方にまで広がっていきますね。
興味を持ち、やってみたいなら既存のジャンルを超えていくこと。僕も、生涯にわたってそれを続けたいと考えています。仕事の細かなジャンルは後づけでボーダーラインが引かれただけで、本来の仕事力で分業されたものではないですから、自分を基準にして自由に動く場所を広げていけばいいのではないでしょうか。周囲の目より、自分自身が本気で見つけた原理を元にして選択することです。
自分に負荷を掛ける
クラシック音楽を学んできた僕ですが、今まで舞踏家と一緒に舞台公演を行うなど、様々な新しい仕事を手がけて自分自身をもプロデュースするというか、負荷を掛けることで成長につなげようと考えています。
僕が尊敬し教えを請う世界の音楽家の方たちは、一見すると頑固な横顔に見える人もいますが、新しいことやジャンルの違う音楽にトライアルすることにも果敢ですね。普通なら重要な仕事があるところに、未知とも言える依頼が入れば断るのでしょうが、尊敬する音楽家たちは面白そうだと思えば断らない。僕もそのタイプです。しかし、負荷を掛けると問題になるのはタイムマネジメントで、いい仕事をやり続ける人はみな、そのコントロールに苦戦しつつ、自分の集中力や物理的な時間の配分に秀でています。
仕事力は、自分への負荷と時間の使い方のバランスで新しい局面を開くのかも知れません。それは、企業に勤める人なら一層高いハードルだと思いますが、それでも最後に耳を傾けるべきは自分の考え方です。どんな仕事も必要だから存在しているわけですから、その根本、原理をあなた自身に落とし込んでください。
成長するとは、明るく生きていくこと。数限りない失敗は栄養とし、さて次はどうしようかと、思うままに進んで欲しい。(談)