「思うままに経験を積もう」
鈴木 優人が語る仕事―3
海外で得た「タフさ」
やりたいことだけにエネルギーを注ぐ人々
オランダを拠点にヨーロッパ各国で仕事をしていますが、やはり海外の人の取り組み方には日本人と大きな違いがあります。ヨーロッパは大陸にあって様々な民族が隣り合い、片や日本は海という輪郭を持つ島だという環境によるものなのかも知れません。
大陸は広い。国境も陸続きなので大地が果てしなく続く感覚があり、文化も交錯しているから、自分で居場所を決めるという考え方が当たり前のように感じます。だから「これだ」と思うようなやりたい仕事には、じかに真っすぐアプローチし、その核心だけにエネルギーを注ぎ、周辺の思惑などは気にしない人がとても多いという印象です。そして、その姿勢から僕はかなりの影響を受けてきました。
それは仕事に限りません。例えばバスが出ようとしている時に、「このバスはどこへ行くんですか?」と人の真ん中で叫ばなければ伝わらない。近くにいる人に「すみません、ちょっとお尋ねしたいのですが」なんて遠慮していては通じないのです(笑)。ヨーロッパで生活していて一つ得られた力は、「目的を直接はっきりさせる」というタフさでした。
一方日本には、きっちりと周縁を整えてから目的に至るという美学があります。例えば生け花や茶の湯などのように、型を習得しながら次第に核心へたどり着くというような。周囲と調和しつつ、自分の思いを最後に投影させていく。これは、海という輪郭に守られているからだと思います。音楽でも、日本人はノーミスで完璧に演奏すると言われるんですが、それは自己主張より、まず周縁の質の高さを大切にする文化だからでしょう。
僕はと言えば、オランダと日本が半分ずつ交じり合ってアイデンティティーが出来上がっている。やりたい仕事への情熱はもちろん、その仕事の報酬についてもきちんと聞くという大陸的な現実性もあります。
慣れ、飽き、は僕の人生に要らない
僕は、仕事のオンとオフを分けるという考え方をしたことがありません。音楽をなりわいにしているからではなく、そもそも誰だって丸ごとどこを切っても自分自身ですからね。仕事で経験した、人には見えない挫折や小さな発見は、言葉にはできなくても自分で何かに気づくきっかけになります。
大切なのは、その感覚を正直に受け止めておくこと。人に伝えるために言葉に直してきれいごとにしない。自己弁護もしない。僕は、それは本音か、正直な感覚かと自分に必ず問い、慣れなんかに捕まるものかと思っています。
ただ、そうは言っても行き詰まることはたくさんあるので、それを吹き飛ばしてくれるような起爆剤をいつも探しています。他人の素晴らしい仕事からの刺激とか、コンピューターの、山のようなショートカットキーを解明し尽くすとか。「おっ」とうれしくなるような発見を枯らさない。人生に飽きない力をもらえるように(笑)。
自分は「丸ごと」で自分です。どこで何をしようと、持っている能力も感情も僕は本気で全部使う。必死さが恥ずかしいなどと言ってはいられません。グローバルな世界で生きていくためのタフさには、そういう瞬発力や集中力も含まれているんですね。(談)