仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「興味を追って仕事の核に」
磯田 道史が語る仕事--1

就職活動

好奇心の赴くまま進む

文字を読まない小学生だった

母親の話によると、1歳半くらいには目の前にあるものを開けたりバラバラにしたりして、何でも確かめてみるような赤ん坊だったそうです。小学生になる頃はうちの庭に出雲大社の模型を作ったし、近所の原っぱに竪穴式住居も再現しました。生えているセイタカアワダチソウを何本も束にして柱にし、雑草を縄にして素敵な屋根にする。そういう意味では、工夫やアイデアの限りを尽くすような仕事力は原っぱが養ってくれたと思っています。
 
ただ、ひらがなや九九など勉強はそっちのけ。親は何度も学校から呼び出されていました。その頃の僕は弥生土器の再現に夢中になり、焼いては試すを繰り返していた。高い温度が必要だと知って危ない実験もしましたが、黒くしかならない。なぜ本物のように赤くきれいに焼き上がらないのか。自分の考えだけでは思い通りにならず、僕はついに小学校の図書館で窯業(ようぎょう)の本を読みます。そこには「なぜ土器は赤くきれいなのか。あれは土の中にある鉄分である」と記されていた。ピンときてすぐにさびた鉄板を集め、表面を削って泥に混ぜたら本当に赤く焼き上がりました。また、焼き物ができて釉薬(ゆうやく)、つまりうわぐすりを使うまでおよそ一万年もかかったのに、文字を読めば一日でその技術が得られるというのは衝撃でした。
 
本というものはとんでもないものです。小学生の自分が一日で人類の知恵を得てしまえる。それで僕は全ての図書館の本を読み尽くすと決めます。また実家には古文書があって、祖父から手ほどきを受けて読むようになりました。大学までこのようにして図書館の本全ての制覇を自分に課していたのですが、母校・慶應大学の図書館に何日も飲まず食わずでこもっていたら、倒れて救急車で運ばれてしまった。それからは防衛学だろうが宇宙論であろうが、背表紙を触って面白そうなら手に取ることにしました。こうして僕は、自分が何に引かれるのか、止められない興味は何か、ちょうど「雪だるまの芯」に当たる仕事の核というものを探し求めた。それが日本史だったのです。

「雪だるまの芯」とは、知識資本

専門性という言葉で呼ばれることが多いですが、言い換えて「それがやりたくて仕方がないという気持ちの結果」を仕事とせよ、と僕は伝えたい。誰が何と言おうと没入する興味の核、それに自分が腹落ちしてから仕事を考えて欲しい。そんな悠長なことを言っていられるかと思いますか。しかし、資本主義社会はお金がお金を生むシステムになっているので、生き抜くためには雪だるまの芯のように尽きない知識資本が仕事力を左右するでしょう。
 
僕は幾多の歴史上の人物を見て確信しています。これは人脈にも言えることですが、歴史上の功を成した人物は最初に信頼できる人と出会い、そこから知己を得ています。直感を信じ、自分の好奇心を素直に伸ばすことは仕事の要になるのではないでしょうか。例えば、若くして仏像や文化物の修復に興味を持ち、飛び込んでいった人の仕事力は余人をもって代え難いに違いない。その人のこれからの仕事人生って楽しいだろうな。
 
今、とりあえず給料をもらえる仕事で若い時代をしのぐ人は多い。でもそれはあなたのやりたい仕事なのか。そんなことを考えてみませんか。(談)

いそだ・みちふみ ●国際日本文化研究センター准教授。博士(史学)。1970年岡山県生まれ。2002年慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。社会経済史的な知見で歴史上の人物の精神を再現する仕事を続けている。著書『武士の家計簿』(同名で映画化)、『日本史の内幕』『天災から日本史を読みなおす』ほか多数。最新刊は『日本史の探偵手帳』。13年からNHK BSプレミアム「英雄たちの選択」の司会・解説を務める。
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