仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「興味を追って仕事の核に」
磯田 道史が語る仕事--2

就職活動

学びとキャリアをつなげよ

個人の知識財産が社会に役立つ

ミニ竪穴式住居を空地にこしらえたり、弥生土器を再現して焼いてみたり、何でも試す子どもでした。やりたい放題で楽しかった。その小学生が「本には人類の知恵が詰まっている」と気づき、夢中になりました。本は知識や技術の缶詰で、とにかく知りたい。「学校の図書館の本は全部読もう」と、大学時代には、飲まず食わずで図書館で読み続けて倒れ、救急車を図書館に横づけするという騒ぎを起こしてしまいました。

何にでも興味を持ちましたが、昔の人の暮らし向きが一番気になりました。旧石器時代の日本人の平均寿命は10歳代です。当時は東京が今の札幌ぐらいの気温で寒い。その中で原始人の女性は妊娠・出産した。その裏にはきっと生々しい人生があったに違いない。歴史を暗記物とすることにずっと疑問を抱きながら学び、歴史の書物からは離れず、大学院に行こうと考え始めました。
 
でも就職も考えて迷い、1社だけ就職試験を受けてみました。面白がられてすぐに社長面接まで進み、「あなたにとって仕事とは何かね」と問われてその場で考え答えました。「自分を養える、会社に利益をもたらす、それを通じて社会に貢献する。この3面の達成が仕事」と。そしてその時、やはり自分は大学院でもっと学びたいと気づき、企業への就職はせずじまい(笑)。
 
これは近江商人の「三方良し」という仕事哲学だと後に知ります。自分にも相手にも世間にも良い取引をという哲学。僕の場合、まず、歴史学で食べられると楽しくて、自分良し。一般の方も楽しめる歴史書が書けると、世間良し。僕の本を出版する会社も利益が出て、相手良し。これが理想だから、一般書も書ける歴史学者になろうと考えたのです。個人の知識財産って、社会にもっと役立てられないだろうか。個人の知はきっとキャリアの柱となります。

スタンダード教育の終わりが来た

機械の人工知能(AI)が発達する今日、教育は変えないといけません。小学校から高校卒業まで12年、大学を加えて16年。今まではこの学校教育の期間、工業社会を推進するための人材育成をしてきました。皆で同じスタンダード知識を脳内入力し、見事に入力できた人が「センター試験」で選ばれ「一流」大学に入れてもらえるゲームで、これは学問ではありません。お行儀教室に近い。標準の基礎教育が重要なのは確かです。ただこれからはそれだけでは足りない。一生、自学自習する習慣や陳腐でない知識、技術を持つ人が強い。
 
モノ生産の時代は同じモノが2個あれば2倍の価値になります。独創的でなくても2個目を模作すれば食えました。でも情報化の時代は大変。同じ情報は2個あっても無価値です。これまでと違う新技術や、すごい知識を独創する人材をどうやって育てるか。真剣に考えないとこの国はますます衰えます。日本人は平和が続くと皆で標準行動をとり、当たり障りのない常識人を出世させます。しかし変革期が来て危機になると、織田信長や西郷隆盛、坂本龍馬のような個性的な人を短期間使って捨てるシステムでやって来た。でも21世紀は人類史上の大変革の連続です。
 
そんな状況にいてどうしたら自分らしいキャリアを手にしていけるか。常識を疑え。新しいものに夢中になれ。自分だけの発想を追求せよ。これが仕事力に育つのではないでしょうか。(談)

いそだ・みちふみ ●国際日本文化研究センター准教授。博士(史学)。1970年岡山県生まれ。2002年慶應義塾大学大学院文学研究科博士課程修了。社会経済史的な知見で歴史上の人物の精神を再現する仕事を続けている。著書『武士の家計簿』(同名で映画化)、『日本史の内幕』『天災から日本史を読みなおす』ほか多数。最新刊は『日本史の探偵手帳』。13年からNHK BSプレミアム「英雄たちの選択」の司会・解説を務める。
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