仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「失敗や恥では死なない」
出雲 充が語る仕事--4

就職活動

「気になる」は自ら追う

理想を何としても実現する

2005年12月、悲願だったミドリムシの培養に成功し、「ミドリムシで世界の食料問題を救える」と期待しました。でも、2年間で約500社に営業したものの、うまくいかなかった。資金も体力も限界の中、08年に大手商社から研究開発費の出資を受けます。ミドリムシの可能性を分かってくれる初めてのパートナー企業でした。
 
やがて、ミドリムシを使った製品は健康食品や飲料、化粧品など次第に増えていきました。私に栄養問題の存在を気づかせてくれたバングラデシュでも、59カ所の小学校で毎日ミドリムシ入りのクッキーを食べてもらえるようになり、約1万人の子どもたちの栄養失調が改善しつつあります。でも、わずか1万人です。1年前にロヒンギャ難民キャンプへ20万食分のクッキーを持っていきましたが、せめて100万人分は届けたかった。もっともっとと気持ちは焦りますが、まだ実現できていないことが歯がゆいです。世界規模で見れば、栄養失調人口はおおよそ10億人。ミドリムシならこれをゼロにすることが必ずできると思っています。
 
私のようなベンチャーの仕事は、逆転満塁ホームランを1本打って皆を驚かせることです。すると「うおぉ、すごいぞ!」となりますね。俺にもできるかもしれない、私もそんな仕事をやってみたいと気持ちが湧き立ちませんか。例えば1万人分のクッキーだとまだパワーが弱いですが、100万人分だとインパクトがあるし、そのゴールはもうすぐだと思っています。そして達成したら「食料問題や栄養問題の解決にはミドリムシ」と世界に伝わり、さらなる解決へとつながるでしょう。
 
ミドリムシはさらに幾つもの素晴らしい力を持っています。光合成をしますから、他の植物と同じように二酸化炭素(CO2)を吸収し、酸素を送り出します。それだけではありません。私たちは研究によってミドリムシからバイオ燃料が作れることも実証してきました。すでに自動車を走らせることができていますが、20年にはバイオジェット燃料で飛行機も飛ばす予定です。

日本をバイオ燃料先進国に

最初は半信半疑だった航空会社も自動車会社も、それなら一緒にやりましょうと言ってくださるようになりました。石炭や石油の資源ではなく、バイオ燃料を日本で産出して使うというグランドデザインを、実はほとんどの企業が持っています。
 
あとは誰が社内でその口火を切るかですね。失敗したら死ぬほど恥をかくからと怖がる人が多いですが、世界に存在する問題や気になることにはぜひ動いて頂きたいです。グランドデザインは、時間をかけてもやり遂げるという理想を提示しますが、私もミドリムシの可能性を掲げながら13年以上も恥ずかしい思いをしてきました。しかしまだまだ続けます。
 
かつてケネディ米大統領がアポロ計画を発表した時も、人間を宇宙ロケットに乗せて月に送るなんて不可能だと言われました。でも、そのグランドデザインが示されてテクノロジーは猛烈に進化した。みんなが本気になったからです。それはどの仕事も同じだと思います。あなたが気になっていて解決したいことがあるなら、誰かがやってくれるのを待つより自ら動くことです。(談)

いずも・みつる ●(株)ユーグレナ代表取締役社長。1980年生まれ。東京大学農学部卒業。大学在学中、「ミドリムシ(微細藻類ユーグレナ)」が食料や環境の問題を救う可能性を知る。2002年(株)東京三菱銀行(現三菱UFJ銀行)入行。1年で退行後、05年ユーグレナ設立。同年12月各方面の協力を得て世界初のミドリムシの食用屋外大量培養に成功。苦慮を重ね、食品、化粧品、燃料など数多くの分野で事業化を実現。Japan Venture Awards 2012で経済産業大臣賞を受賞。
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