「実現したい社会を考え続けよ」
松尾 豊が語る仕事--2
自分の力を「メタ認知」する
才能は、性質と環境のマッチング
インターネットが、日本の産業領域や社会全体にどれほどのインパクトをもたらすか。その可能性は今も実感されつつありますが、それでも現在は、今後10年、20年かけて社会全体が変わっていく最初の時期だと思います。この未来を仕事として担う学生や若い人たちは、どんな進み方を目指したらいいのでしょうか。
僕は、まず世界に目を向ける習慣を挙げたい。日本人にももちろん強みと弱みの両面があると思いますが、自分を客観視することは非常に弱いと感じています。均質な国民性でもあり、思想が根本的に異なる人と会話したことが少ない、あるいは世界の中での日本人の特殊性のようなものを意識する機会があまりないからでしょう。世界全体から見た自分たちのポジションを客観的に捉えるために、海外のいろいろな人と話したり、本を読むなどの努力をしていって欲しいですね。
さらに、自分の力をメタ(高次)に認識して、その力が活(い)きる場所を選ぶこと。才能は、あるかないかではなく、基本的には資質と環境のマッチングだと僕は思っています。例えばスポーツ選手を考えると、体の大きい人は柔道やラグビーなどが向いていそうですし、小柄な人は卓球などで動きの機敏さが活きるかも知れない。
それが社会全体にも言えます。ある人は記憶力や問題の意図を読んで答える能力に優れていて受験に強い。一方で、人々に知られていないニーズを嗅ぎ取るとか、コミュニケーションが得意とか、別の軸で能力が高い人もいるわけです。なるべく早いうちに、自分のどこが強いのか、弱いのか、どういう能力が求められている領域で勝負するか、生きていく場所を選ぶことです。
かつて僕は、学生にこの「メタ認知」を伝えるために「モンスター化しろ」と言っていました。どういうことか。例えばフランケンシュタインがつくった人造人間や、ドラキュラなどのモンスターは、一度死ぬような体験をくぐり抜けてきたので自分の弱み強みをシビアに把握し、弱みとなる場所には行かない。ドラキュラは昼間は出てこないですよね(笑)。
負けない領域へ集中を
これは僕の体験ですが、スタンフォード大学の教授から「もっと集中しろ」と助言されました。当時の僕は複数の研究を続け、大きく分けるとウェブの研究と、ユビキタス分野でロボットなどの研究に取り組んでいたんです。どちらにも強い興味がありましたが、教授の感覚からすると客観的に、何でもできるというのは何もできないのとほとんど同じだと見えたのでしょう。
そう言われて尖(とが)ることの大事さに気づきました。日本の社会は選択と集中が得意ではなく、やることを明示して競争しないから、それぞれの仕事がぬるくなるのかも知れません。助言を得て僕はウェブ研究に集中することにしました。正直、ずっと同じ領域にいると飽きることもあるんです。やっぱりあっちの研究も面白そうだと気になることもある。でもこの時以来、尖る、集中するということをいつも意識しています。
まず、自分を知り、最も力を出せるジャンルを選び抜くこと。そうすることで仕事の力は伸びていくのではないでしょうか。(談)