「必ず故郷を活性化させる」
千葉 祐士が語る仕事--3
砂から針を探すごとく
人と違う領域を見つける
故郷の一関市で焼き肉店を開業し、実家の牧場から牛1頭を丸ごと仕入れて、その肉の味に自信を持って営業していました。しかし店は2年近く振るわず、大量の肉を何とかしようと工夫するうちに、肉をおいしくする熟成の技術と、82もの部位に仕分ける技を究めていきます。それでも店はなかなか軌道に乗りませんでした。
思い余ってお客さんに質問すると、肉はうまいがタレがまずいという人が多い。つまり他でおいしいタレを知っていて、その味と比べているわけです。自分のビジネスは何をどう間違えたのか。原因はタレだけなのか。冷静に一つひとつの要素を因数分解し、ハッと気づきました。近くに30年以上も繁盛している韓国焼き肉店さんがいて、みんなあの店のタレやキムチと比べているからかなうわけがない、と。私は、すでにある他人の得意分野に乗っかっていただけでした。韓国焼き肉がおいしいからには、そのまねをしている限り突破口はないと思い知りました。
そして私が挑むべきは、誰もいない海へこぎ出すことでした。それは日本どころか世界でも類のない技術を持って、和牛の繊細なうまさを味わってもらうことだと考えたのです。一般的に肉の部位と言えばヒレやサーロイン、ロース、モモなどの名が知られていますが、和牛はさらに頭から足までを細やかに切り分け、カメノコ、サンカク、トウガラシ、ネクタイなどなど82の部位まで味が違います。もちろんそれぞれの最適なカット方法も異なる。だから徹底して肉に焦点を当てるため、調味料は塩、コショウ、ワサビじょうゆにしました。それが17年前でした。
初めてのことに人々は敏感です。でもそれがおいしい、楽しい、人に薦めたいという本物と言えるものならば、必ず仕事として力を持ち、伸びていきます。時間は掛かっても、人がまだいない居場所を探し、究めていく。それは先が見えない怖さがあるし、孤独感もあります。ただ私の場合は、大切な故郷の産業が衰退し、過疎化の一途をたどる現実が残念だった。だからこそ知恵と力が枯れなかった気がします。
テーマパークからのヒント
独自の肉を食べてもらう。その試みが功を奏し、私は故郷の1号店を皮切りに各所に出店を果たしてきました。ただ、店を増やしたかったわけではなく、私の頭の中には、米国の人気テーマパークをモデルにした構想がありました。それは、他国で素晴らしい収益を上げて母国に多額の送金を行うテーマパークのシステムです。
例えば東京で焼き肉店を運営し、故郷一関の和牛や農産物を用いて、その味を体験してもらう。同時に一関の自然や農産物の情報を伝え、パイプを作る。そういう試みを私も続けています。米国のテーマパークでも、売っているのはモノだけでなく、キャラクターやパレード、そしてスタッフの魅力というソフトです。学ぶべきことは、持っている宝をどのように生かして、感じ方というか、楽しみや感動をどうオペレーションするかです。
先日、中国のジャーナリストに岩手県などを案内する機会がありましたが、「日本は宝の山だ」と感嘆されました。うれしかったですね。私たちは、一人ひとりの故郷に光を当てる時なのでしょう。(談)