「必ず故郷を活性化させる」
千葉 祐士が語る仕事--4
我が町は、世界に通ず
お国自慢を手放さない
和牛のおいしさを究めて、故郷の一関市から東京まで焼き肉店経営を続けながら、私は地方の衰退を食い止める手立てを考え抜いてきました。その構想の基本になったのが「テロワール」です。テロワールとはフランス語で「土地に根ざすもの、あるいは生育環境」を意味するそうです。ワインなど、各地の気候や土壌によって生産物の味わいが異なることを指している。これは、日本で言うならお国自慢だと私は思いました。
例えば江戸時代は藩ごとに独立していて、行き来するには通行手形、つまり今のパスポートのようなものが必要だった。藩は国と同じであり、だからこそ地域独特の風土や文化によって食べ物や芸能がしっかりと生まれ育ち、根づいたのです。お年寄りと話をすると、いくらでも豊かなふるさと自慢が出てきますね。私は、日本の食も文化も多民族国家のようであり、地方の隅々まで独自のクリエーティブが息づいているんだと気づきました。
運のいいことに私は、当時人口千人にも満たず、信号もない岩手県の片田舎で生まれ育ちました。豊かな自然の中でキジやウサギ、スズメ、アユなどを捕まえて食べ、土地の野菜を味わい、そして今は和牛のおいしさを提供する食の仕事に就いている。それなら私は都市と地方とのハブ、つまり中継するような役割が担えると考えたのです。具体的には、地方の食に焦点を当て、日本のテロワールを守るような仕事と言えるでしょうか。
海外からのジャーナリストや企業人を地元に案内すると、生産者が食を守る仕事を大事にしていることに注目されます。住民にとっては当たり前の努力や生産物が、日本の財産であり世界に通じる価値なのです。私たちはこれを手放してはならないと痛感します。
故郷の廃校を「肉の聖地」に
地方でおいしいものを作り、それを気に入ってもらって大都市の消費者に食べて頂く。つまり「地産外商」ですね。生産の裏側にある物語を知ってもらい、食品と共に地方の価値も味わってもらいたい。私が営む東京の店でも交流会を定期的に続けていますが、さらに大きな挑戦も始めました。過疎地ゆえに廃校になってしまった私の地元母校を手に入れ、「肉学校本校」としたのです。
ここの体育館を改装してハンバーグ工場にし、日本はもちろん海外の方にもこの地で育てたおいしい和牛を知ってもらうことを目指しています。そしてここを訪れ、生産者を始め、ゲンジボタルやクロメダカが生息する美しいビオトープ(野生動植物の生息地)と触れ合い、地域の可能性や楽しさを体感してもらいたい。私は、食を通じた地方創生を本気でやらなくては地方が消滅するという強い危機感と焦りを持っていて、日本国中の若い世代に伝えたいのです。
もしあなたが地方にベースを持っているなら、農業の仕事構想など、第1次産業のデザインを早く練ってはどうでしょうか。インターネットを生かして新しい事業に投資を募るような方法論を持つ時代です。これからの5年、10年で我が町、我が故郷のテロワールをどう守るか。経済的に取り残されない知恵はないか。ぜひ、そんな視点を持って仕事を考えてください。(談)