「自分らしさに率直な仕事を」
水原 希子が語る仕事--3
「分かり合える」を表現したい
他人との比較に意味はあるか
10代でファッションモデルの世界に入り、私自身も写真の芸術性というものに惹(ひ)かれていましたが、20歳の頃に映画に出演してからは様々な芸能の仕事も頂くようになりました。初めてのこともあり、写真家の荒木経惟さんに相談すると、「芸能半分、芸術半分でいけばいい」という答え。私にもたらされる仕事を通してがむしゃらに、自分をごまかさず、ありたい未来を目指そうと決めました。
私はずっと、人と人とが垣根を作って分断してしまうことが残念で仕方ないのです。同じ時代にこの地球に生まれたのだから、互いに分かり合いたいと考えてきました。そして、この2、3年は幾つかの出演作品から学びをもらっています。例えばNetflixのリアリティー番組「クィア・アイ」の東京編で進行役だった時です。アメリカでシリーズ化されている人気番組で、各分野のプロフェッショナルの男性5人が一般の人を訪れ、見た目からマインド、住まいのインテリアまで改善していく企画です。
東京編では、自宅を介護施設として運営しているシニア世代の女性にもそのパワーが注がれました。
彼女は1人で高齢の入居者をお世話しているため、多忙で自分の衣服も食事も後回し、事務机の下で眠ることもしばしばです。アメリカ人プロフェッショナルと、介護に身をすり減らす日本人女性。言葉はほとんど通じないし、文化も考え方も違っているし、理解し合えるかしらと進行役の私の不安はとても大きなものでした。でも、彼女は彼らの力量に圧倒されながらも、両者は互いに温かさや一生懸命な表情を読み取ろうとし、そのうちにみんなの気持ちが通っていったのです。
ああ、これが私たち人間の本質的な力だと私は確信しました。人間と人間の絆は国や文化や慣習などを超えて、今、目の前にいる人と深く結びつこうとする意思から生まれるのですね。彼らは、見違えるように生き生きと元気になった彼女に、「自分を犠牲にせず、これからはまず自分を愛して。自分を大切にしないと他の人も大切にできないよ」と伝えたのです。そのプロの仕事ぶりが胸に刺さりました。
ステレオタイプ思考からの脱出
自分を大切にするって、言葉にはできても実際には迷うばかり。私も行動してゴツンとぶつかってから気づきます。誰でも、いつの間にか身についた「こうするべき思考」が、本音を言いにくくしているのかも知れませんね。
最近出演した映画は、裕福な都会のお嬢さんと、地方から上京し働いて大学へ通う女性が1人の男性を愛して葛藤する物語ですが、境遇が違い過ぎて会うこともない女性2人。1人は裕福で恵まれていても環境に縛られ、一方故郷を離れ自由を得たはずの女性は自分の現状を冷静に見ている。で、この2人が会い、互いの苦しさを感じ取るシーンの表現では、特に私の思いが重なりました。
私たちは自分らしく生きたいと願っているはずです。それができない苦しさの要因は「ステレオタイプなものさし」のせいかも知れません。私はそれを解放する表現を仕事の目標としたいのです。(談)