仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「実現したい社会を考え続けよ」
松尾 豊が語る仕事--4

就職活動

何のために、の深掘りを

若者の実力は圧倒的だ

今の時代、若者に活躍の場をとか、若者に成長の機会を与えるべきだといった議論がたまに行われます。国の制度でも「若手育成」をうたったものは多い。ただ、私が研究しているような人工知能(AI)・ディープラーニング(深層学習)の分野などは極めて動きが速い。そんな中で僕が日々痛感しているのは、若手の方が圧倒的に「実力がある」ということです。
 
例えば彼らは、最新のフレームワーク(枠組み)を使ってプログラムを組み、最新のGPU(高性能演算装置)を駆使して計算し、最新の理論で裏づけされたアルゴリズム(解決のための手順)を走らせ、必要な技術やノウハウを蓄積しています。こういう実学を毎日時間をふんだんに使ってやっている若者の方が、圧倒的にITの仕事に強い。よく年寄りは、もっと基礎を理解しないといけないなどと言いますが、こういった新しい試行錯誤の中から新しい時代の「基礎」が生まれるのです。
 
社会全体で若者を育成するといった上からの目線ではなく、いかに実力のある若者の邪魔をせず、能力を発揮して活躍してもらうか、若者が伸び伸びと学び、十分に活躍できる環境をどうつくるかが最も重要だと思います。
 
いつの時代でも新しいイノベーションを生み出すのは、それまでの価値基準から見ると少し変わった若者です。そして、求められる能力は時代時代で変わっていきます。スマホにも情報があふれる現代では、いかに情報を取捨選択していくかのスピーディーな判断力が重要となります。今の若者はそれに適応しています。
 
もちろん若者には至らない部分も多い。特に社会に関する様々な知識。人の心を思い、人を動かす能力。短期的な利益だけでなく長期的な理想を追求していく精神性。そうしたことを年輩者から学びながら、いかに自らが所属する組織の、そして社会の役に立てるか考えていって欲しいと思います。

あなたが求める未来を探せ


AIはやがて、電気のように社会の基盤として人の暮らしに溶け込んでいきます。農作業を軽減したり、介護などの現場で役立ったりするロボットも登場するでしょう。もちろんハードウェアなど技術的な課題は多い。しかし、インターネットと同じく、時間をかけて徐々に社会全体が大きく変わっていくと思います。
 
AIは道具として強力です。だからこそ、それを使いこなすと同時に、どう使うのかを考えるのはとても大事です。毎日の仕事の中で長年、当たり前にやってきたことも、AIやITをうまく活用すれば効率化できるかも知れません。我々の身近にある「当たり前」を大胆に問い直し、新しいやり方を模索することがこれから重要な能力になってくると思います。
 
また、AIは倫理や社会に関して様々な問いを投げかけています。自動運転や医療の画像診断支援の技術など、「学習する人工物」を社会で使っていくには色々な仕組みが必要です。法律の在り方も変わってくるでしょう。
 
AIを基盤にしてできることは何だろうか、と知恵を巡らせて仕事をする。あなたにはこれからそんな働き方が待っているでしょう。そのノウハウが例えば地方を助けたり、グローバルに活用されたりする時代です。「これって何のためにやっているのか」という自分の仕事を掘って掘って考えていってください。(談)

まつお・ゆたか ●東京大学大学院特任准教授。博士(工学)。東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻。専門は人工知能。1975年生まれ。97年東京大学工学部電子情報工学科卒業、2002年同大大学院博士課程修了。産業技術総合研究所研究員、スタンフォード大学客員研究員など多くのキャリアを経て14年から現職。学術、経済分野で受賞多数。著書『人工知能は人間を超えるか』ほか。
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