「日本ファンを増やし続ける」
谷川 じゅんじが語る仕事―3
空間と人との化学反応を
徐々に見えてきた自分の生業
12年間、多くを体験した空間施工会社を辞し、4カ月後に僕はJTQを起業しました。空間を作る仕事というのは特に数多くの人が関わります。クライアントの要求を理解し、デザイナーにコンセプトを伝え、施工会社のコストパフォーマンスを上げる。いい空間をアウトプットするための編集やチューニング、キュレーションなど、全体のバランスを取りながら質の向上を見極めていく、つまりクリエーティブな視点を持ちながらプロジェクトをマネジメントする役割が仕事となりました。
当初はこの職域を表す肩書が見つからずクリエーティブディレクターとして活動していましたが、いま一つしっくりしない感覚を持ちながら数年が経ちました。ある日先輩から「空間を構成する人=スペースコンポーザー」という提案を頂きました。僕が感じている空間は、ハードウェアだけでなく空気感、雰囲気、リズムなども含め、ある種の調べを持つ場を作ることです。オーケストラに例えれば指揮者のようなもの。楽団の演奏者一人ひとりの個性を引き出し最高の演奏を導き出す仕事です。一も二もなく提案に飛びつきました。この日からスペースコンポーザー谷川じゅんじが始まったのです。
誰も聞いたことのない肩書は、当初名乗るのが気恥ずかしかった。新しい切り口で人々を喜ばせる仕事をするんだという意気込みでスタートしたものの、何をする人かはなかなか分かってもらえません。そこで記録を残し、一目で仕事の領域を感じてもらえる工夫をしようと考えました。今でもそうですが、全ての仕事を目に見える形できちんと残す。会社組織にした2002年から12年ぐらいまでの10年間、とにかく案件数を形で表すという職域の実像化に時間を費やす日々が続きました。
事業者から発想のパートナーへ
10年を超え、僕の意図する空間作りがいろいろな視点から評価して頂けることが急に増えました。一緒にお仕事をさせて頂いた方々が次のお客様をご紹介してくださる連鎖を感じたのもこの頃です。仕事の領域が確立されつつある実感が湧いてきました。前職から続けてきたイベント的な期間限定の空間作りから、施設や都市の開発コンセプトの立案、グランドデザインと言われる大きな構想のイメージ作り、また企業ブランディングなど仕事の範囲も急速に広がりました。まさに量から質への変化が訪れたのです。感覚的に言えば1を10に膨らませる仕事から、0から1を生み出す仕事に変わってきたということです。
世界は日々変化し、新しい技術やインフラが次々に生まれています。数年前まで夢物語だったものが月額千円程度で手に入る、そんな急速な変化です。欲しいものは街へ探しに行くのではなくネットで探して明日には届く。しかし、そんな時代でも変わらないものがあります。人が喜ぶ姿を人は喜び、人が集まる様子を見て人は集まってきます。感情は目に見えませんが確実にその周辺、あるいはその人と緩やかにつながっている人々に連鎖を促します。わざわざ時間と手間を掛けて訪れた場所が、期待への約束を果たさなければ信用も好意も失います。場を訪れる人に感動という化学反応を起こしたい。感情への働き掛けが、この仕事では一番大事な仕事力となるのです。(談)