仕事力~働くを考えるコラム

就職活動

「丁寧な仕事に幸せが宿る」
武田 双雲が語る仕事―4

就職活動

社会には、あなたが必要だ

今の仕事の豊かさを感じて

僕は、この世界が一人ひとりの仕事で編み上げられ、動いているのだと毎日感じています。駅へ行けば時間通りに電車が走っている。新幹線は世界屈指のスピードでほとんど事故なく運行している。水も電気も途切れることなく使え、スーパーやコンビニにはいつも商品が並んでいて、米、野菜、肉や魚もちゃんと供給してくれる人々がいます。ぜひ、あなたの周囲をゆっくりと歩いてみて欲しい。

文明は永く続いています。その大きな流れの中にいる僕たちは、働くことでそこにアクセスしていくのです。根底にこういう豊かさに目をやる心がないと、いくら収入が高くなっても出世しても、ずっと焦りや不安は消えないし、何かに追われ続け永遠に空しさがつきまとう。多分それは、自分の頑張りで自分の仕事をコントロールし夢をかなえようとしているからですね。

では、どうするか。夢を持つのは無駄なことなのか。実は僕も以前は「未来に夢を持とうよ」と会う人ごとに言っていました。それも大切です。でも、こんなに豊かな現実が目の前にあるのに、夢だけを考えて今にフォーカスしないって苦しくないか、もったいなくないかと思うのです。現在は仮の姿で、夢をかなえた時こそが本当の自分ですか。いいえ毎日毎日が本当の自分ですよね。仕事も同じ。こんな仕事は面白くない、自分に合っていないと斜めから見るのではなく、どこか一部分でいいから好きなパーツを見つけ、丁寧に丁寧に手を動かしていってください。

僕はよく、世界の偉人たちや各界で活躍し続ける著名人たちを思い浮かべます。例えば今も歴史に残るような記録を刻み続けているスポーツ選手の場合、そのある一日を切り取って僕らと比べてみると、きっとそんなに違わない。食事をし、テレビを見て、メールに返信し、そして丁寧に練習をする。今日の自分と向き合うことを楽しんで、仕事を積み上げているのではないでしょうか。

一つの作業に手をかける

人の仕事は、人を喜ばせることにつながっている。まず、それを感じてください。世の中と縁のない仕事はありませんから、どんなに細かい事務でも、見ている人がいなくても「これかな」と探す。そして、これ以上できないというほど大切に丁寧にやってみる。不思議なことにやがて楽しくなり、好きになっていくんですよ。目の前の一つの仕事に心がこもっていくと、焦りが消え、何か透明な気持ちになります。

僕は、多くの講演会で若い人に語りかけていますが、先日、これから介護の仕事を担う3千人以上の前に立ち、人生は一瞬一瞬が大切だという話をしました。その際、参加者に椅子から立ち上がってもらい、まだまだ座っちゃダメですよと言いながら様々な話をし、さて、親からもらった丈夫なお尻に感謝しましょう、椅子を作ってくれた製作者にも感謝しましょう、そして元気で椅子とお尻が出会える喜びを味わってください、と告げて座ってもらうワークをしました。驚いたことに講演後、「感動した」というすごい数のツイッターやメールが届いたのです。ああ、伝わったとうれしかった。

社会とのつながりに思い至れば、仕事はたった一日で違って見えてくるのです。(談)

たけだ・そううん ●書道家。1975年熊本県生まれ。3歳から書道家の母・武田双葉に師事。東京理科大学卒業後、NTTに入社。約3年後に書道家として独立。斬新な個展など創作活動で注目を集め、NHK大河ドラマ「天地人」やスーパーコンピューター「京」など数々のロゴを手掛ける。独自の世界観での講演、国際活動なども多数。作品集・著書『たのしか』『絆』『しあわせになれる「はたらきかた」』『ワクワク人生教室』ほか。公式サイト https://www.souun.net/
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