「その好奇心に力は潜んでいる」
丸 幸弘が語る仕事―4
「得意技」のタッグを組む
町工場とベンチャーで
「世界から栄養失調を無くしたい」「広大な未開の地域に十分な電力を」「病気で苦しむ人をゼロに」。このような問題をサイエンスとテクノロジーを駆使して、なるべく早く解決できないか。それはまだまだ理想論だという人もいますが、研究者たちは、それぞれに世の中に貢献すべき課題を掲げて地道に何年も研究を続けています。しかし、研究の成果を現実に試すには資金も設備も、そして人も全く足りない。
ITベンチャーの研究や技術は、あっという間にグローバルな形で事業展開が実現されます。米シリコンバレーでは、開発者や投資家、大企業や地方政府の担当者らが一つのフロアにデスクを構え、紹介も商談も自由な場合が多い。垣根無く話が進んでいきます。僕たちも何度も訪れていますが、しかしここでは、ものづくりやバイオ、農業関連ビジネスなどの開発に関わるというベンチャーにはほとんど出会えませんでした。
そして、情報やコミュニケーションを大きく進化させたITはすごいけれど、でも科学技術で生命や環境、健康など「地球の課題解決に挑戦したい」という僕たちとは目指すところが違っているということに気がつきました。
片や、「技術立国」の日本を支えていた数多くの町工場は、その腕を活(い)かし切れず経営が思わしくない。頼りのテクノロジーの現場はどうなっているのか。僕たちは、かつて約1万社の町工場があったという墨田区で区行政と連携し、現存する全3500社余りに足を運んでヒアリングを続けました。その結果は墨田区の「産業活力再生基礎調査」として公表されていますが、8割近くが新規事業や新製品開発を行っていないという回答だったのです。
人と人は化学反応を起こす
その理由として「新規事業という発想がない」51.2%、「アイデア不足」15.5%などが挙がっていました。そう、研究者と町工場3500社がつながれば可能性は広がる。新たな転機はすぐに訪れ、次世代型電動車いすの開発を行うベンチャー企業と、金属加工を手掛ける浜野製作所、プラスチック成形を手掛ける墨田加工の町工場2社のタッグで試作品が完成。無事、米国での資金調達に成功しました。そして新しいつながりのプラットフォームが誕生し、順調に機能しています。
振り返れば、僕たちが初めて起業に関わった、「ミドリムシ」という藻から健康食品を開発したユーグレナ社は上場。また、大規模遺伝子検査を簡便に実現させたジーンクエスト社、リーフレタスを1日1万株超も生産する植物工場ファームシップ社ほか、次々と面白いベンチャーが巣立っています。
経営に疎い研究者に対し、ビジネスの猛者や別分野のプロを僕たちがスカウトしてきて、まず強力な熱いチームを作り、助成金獲得など資金調達も指南します。僕も含めて、稼ぐことが目的ではなく「科学技術の発展と地球貢献」を実現したいのです。だから彼ら研究者は、ベンチャー企業の経営者であり、大学にも籍を残し、別会社のメンバーにもなり、海外でも足場を作るなど、自分の持てる知識や技術を存分に活かせる働き方をすればいい。そのためには学び続けることです。
日本人は、どの国の人とも和を保てるし、やはり非常に優れた能力を持っていると思います。だから、自信を持って走り出しませんか。(談)