「脳に汗をかき、一心に考えよ」
森川 亮が語る仕事―4
人は、新しさを愛していく
女子の直感は世界に通じる
昨年、僕は前に居た会社LINE(株)のCEOを退任し独立しました。世界に展開する動画メディアを作り、日本から世界にパワーを届けたいという思いからです。そのパワー発信を担うのは「日本の女子」。過去に僕が提案してきたビジネスは、だいたい企業内のおじさんたちから反対され、絶対にうまくいかないと毎回言われるのですが(笑)、今、海外のマーケットで興味のあるものが共通しているのは若い女性たちなんですね。
実は、つい数年前まで海外で歓迎されていた日本からのファッションや化粧品、ドラマや音楽、旅などの情報は、それを求める対象年齢が高くなり、かつての勢いはなくなりました。元気なのは和食ぐらいだと感じています。では、変化していくグローバル市場で、これから愛される日本の商品は何か。僕は考え抜き、ヘアアレンジやメイク、ネイル、おしゃれなDIYなどの情報を若い女性向けに発信するメディアを開発しました。アジアの国の女性から驚くほどのアクセスをもらっていますが、それは日本の若い女性とアジア各国の女性に、生活文化や容姿に共通項が多く、そこを狙ったからですね。
ではなぜ女性向けにしたかと言えば、新しいものを最初に受け入れるのは、若い女性か子どもが圧倒的に多いからです。理論も建前も関係なく、これは欲しい、これはダメという「直感」や「本音」で選択する。企業の事情や過去のデータなどには影響を受けにくく、人間が求めるナマのニーズに限りなく近い行動をするからではないでしょうか。それは海外の市場に出ていく時に、各国の文化や積み重ねてきた常識などを突き抜ける、最も重要な価値だと思います。
人間はどんなにささやかであっても、新しいこと、初めてのものを知りたいという好奇心で今日まで生きてきたのではないでしょうか。それをあなたの仕事の中で発見できないでしょうか。
自分を進ませよう
もちろん、仕事でのチャレンジは怖いですよ。新しいことを始めるなら、よくよく考え、会議にかけ、賛同を得てからチームでぶつかっていくのが決まり。上司や先輩から薫陶を受けたその方法論は、ほとんどの日本企業のやり方ですからすごくよく分かります。それでも「こっちの方法ならもっといけるのに」と温めている考えがあるなら、言うだけは言い、1枚の企画書でも書きましょう。大切なのは言語化、あなたの新しいアウトプットです。
僕は、手放しで「人生は楽しむものだ」とは思っていないのですが、仕事がうまくいけば「喜び」を体験できることは実感しています。新しい目標に向けて工夫し、努力し、時には手ひどい失敗もしながら進む。厳しいことを言えば、「モチベーションが上がらない」という人は、誰かに助けてもらっても維持できない。それはまだプロフェッショナルとは言えないと思う。
仕事では、あなたが見えてしまいます。豊かになり、平和で安定した日本でやっている今の仕事が、明日には社会から置いていかれるかも知れない。これは僕が、若い人から管理職、経営者にまで感じている危機感です。だから必死で考えましょう、仕込まれ、教えられた仕事の次に我が手でできる新しい何かを。(談)